研究概要 |
申請書の計画書に基づき、糖転移酵素N-アセチルグルコサミン転移酵素IIIとV(GnT-III, GnT-V)の細胞内糖鎖標的分子の同定と機能解析を行った。まずGnT-IIIトランスジェニックマウスを用いてジエチルニトロサミンによる肝腺腫形成実験を行った。するとコントロールマウスに較べてGnT-IIIトランスジェニックマウスでは、腫瘍の形成が抑制される傾向が見られた。しかし、GnT-IIIトランスジェニックマウスの中にも腫瘍形成の見られた例が少数存在し、これらのマウスの血清タンパクを2次元タンパク電気泳動とレクチンブロットにより解析したところ、6つの糖タンパク質に糖鎖の変化(GnT-IIIによる糖鎖修飾)が見られた。その中の一つがハプトグロビンのβ鎖であった。ハプトグロビンはラジカル除去分子として近年注目されており、今後肝臓の発癌過程におけるハプトグロビンの役割と糖鎖の関係を詳細に検討する必要がある(Free Radical Research 36, 827-833, 2002)。またGnT-Vの糖鎖標的分子としてマトリプターゼを同定した。マトリプターゼは近年クローニングされた膜結合型セリンプロテアーゼで、GnT-Vがこの酵素の糖鎖を修飾すると安定性が増し、分解されにくくなる。すなわちGnT-Vを過剰発現させた胃癌細胞MKN45をヌードマウスに移植すると著しいがん転移が見られ、コントロール細胞に較べてマトリプターゼの分泌亢進を認めた。GnT-Vが何故がんの転移を促進するのか長年の謎であったが、本研究はGnT-Vの標的分子を同定したこと、糖鎖修飾により生物機能が変化したことを初めて見い出したもので、学問的価値が高いと考えられる(J. Biol. Chem. 277, 16960-16967, 2002)。
|