研究概要 |
ES細胞はあらゆる組織、細胞に分化しうる潜在能力、全能性を持った細胞であり、その全能性の維持には、オクタマー因子の中のOct-3/4タンパク質が中心的な働きをしていることが明らかにされている。ES細胞では、Oct-3/4の他にOct-1,Oct-6タンパク質が発現しているので、これらの事実は、これらオクタマー因子にはないOct-3/4特有の性質がES細胞の未分化性の維持に関与しているということを意味している。本研究プロジェクトでは、そのES細胞の未分化性維持を司るOct-3/4特有の性質は何であるかを明らかにすることを目標に研究を行った。まず、ES細胞未分化維持におけるOct-3/4の必要最小領域を同定する為に。Oct-3/4とOct-6タンパク質の間でキメラタンパク質を作り解析した。その結果、ES細胞の未分化維持にはリンカー領域とPOU specific領域の1個の特定のアミノ酸が必須であり、その他の部分は、Oct-6の相同領域で置き換え可能であることが明らかになった。また、このOct-3/4の最小領域を持つキメラタンパク質で未分化性が保たれているES細胞は、Rex-1,UTF1等、ES細胞未分化マーカーが発現していること、さらにはES細胞として最も重要な性質である、分化誘導に伴い、外、中、内胚葉全ての種類の細胞へと分化するという能力を保持していることが確認された。 一方、Oct-3/4,Oct-6,Oct-1の3種のタンパク質ならびに、上記のキメラタンパク質におけるDNA認識配列特異性を系統的に調べたところ、Oct-3/4のみが認識する配列を9種、同定した。さらに、その配列の中の1つである、5'-ACTAGCAT-3'を認識できるという性質と、ES細胞を未分化に保つという性質の間に、完全な相関関係があることが明らかを明らかにした。興味深いことに、この配列は、私が以前クローン化したUTF1遺伝子のエンハンサーの中で中心的な働きをしている配列である。 以上の結果から、オクタマーのいわゆるコンセンサス配列を発現調節領域に持つOct-3/4下流遺伝子に加え、UTF1遺伝子を含む、上記の配列を持つOct-3/4下流遺伝子の作用により、ES細胞の全能性が維持されていると結論した。さらに、Oct-6の過剰発現で、ES細胞の未分化性が保たれないのは、Oct-6タンパク質が、後者のグループに属するOct-3/4下流遺伝子の発現を維持できないからであるという仮説を提唱した。
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