研究概要 |
エストロゲンの生体での生理作用の解析するために,遺伝子破壊法を用いてエストロゲン合成能のないマウス(ArKOマウス)を作製した。エストロゲン合成を欠損した雄マウスでは加齢に伴い、内臓に脂肪が蓄積した肥満体を示すと共に、脂肪肝になることを観察した。さらに加齢に伴い、インスリン抵抗性を示すことも観察した。本研究は、これらの病態が、運動負荷によって予防できるかどうか,また,運動を組み合わせることによって、投与した薬剤の効果を補強できうるかどうかについて解析することを目的にした研究である。 運動の負荷は肝臓での脂肪酸のβー酸化に関わるアシルCoA酸化酵素遺伝子やカタラーゼ遺伝子、筋肉でのブドウ糖を取り込む機能分子であるGLUT4遺伝子の発現量には有意な影響を与えなかった。また,加齢したArKOマウスの血糖の取り込み速度の低下も運動負荷単独では改善することはできなかった。しかし、高脂血症改善作用のあるパーオキシゾーム活性化剤,fenofibrate,を含む餌で飼育した運動負荷マウスでは、負荷していないマウスに比べてインスリン抵抗性が有意に改善した。運動負荷とfenofibrate作用の容量依存性を詳細に解析する過程で,fenofibrateには卵巣におけるエストロゲン合成酵素遺伝子の発現を阻害するという,新しい薬理作用があることを見い出した。その作用はエストロゲン合成のみならずP450sccやStARなどのステロイドホルモンの合成に関わる酵素の遺伝子や細胞がコレステロールを取り込むのに必要なHDL受容体遺伝子の発現も抑制することを明かにした。
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