研究概要 |
肺腺癌の間質浸潤過程において、癌細胞周囲の基底膜は高頻度で破壊・消失している。基底膜は癌細胞の浸潤性発育を抑制するとともに、癌細胞から分泌される間質増殖因子の拡散を抑制する機能を持ち、基底膜の消失に伴い間質増殖因子の拡散・間質細胞の増生・間質細胞から分泌されるHGFによるHGF依存性の癌細胞の浸潤へと繋がっていく可能性を想定し、実験的に検討した。 In vitroの実験によって肺癌細胞は間質細胞に対して増殖刺激作用をもち、bFGF・PDGFが刺激因子であること、またヘパラン硫酸に対する結合によって基底膜がbFGFに対しては選択的な拡散障壁となっていること、基底膜中に蓄積されたbFGFが基底膜の破壊によって放出され、間質増生を引き起こす可能性を実験的に明らかにした。 一方、肺腺癌細胞A549が示すHGF依存性の浸潤性増殖をin vitroで実験的に定量する実験系を作成した。この系を用い、基底膜物質の中のIV型コラーゲンがHGF依存性の浸潤性増殖に対して抑制的に働くことを明らかにした。基底膜が癌細胞の浸潤性発育を抑制する機序として、基底膜の存在下で癌細胞における遺伝子の発現パターンに変化が起きる可能性を想定し、cDNAアレイを用いて基底膜物質の存在下で発現の変わる遺伝子をスクリーニングし、約50個の遺伝子を見出した。この中で、EF(elongation factor)1a1,EF1a2,EF1d遺伝子の発現が基底膜物質の存在下で有意に減少していた。これらはf-アクチンに結合し、細胞運動に関係している可能性の高い蛋白であり、基底膜の存在下ではその発現が減少し細胞運動が抑制され、浸潤能が低下する可能性が示唆された。
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