研究概要 |
(目的)腎細胞癌には臨床病理学的性質の異なる亜型があり、腫瘍の個性に基づいた戦略的治療が必要とされる。本研究ではマイクロアレイを用いて各亜型間での遺伝子発現プロファイリングの相違を検討し、腎細胞癌の病態診断に有用なマーカーを見出すことを目的とした。 (材料と方法) 1.1991年以降、横浜市立大学医学部附属病院において切除された腎細胞癌および非腫瘍部腎組織のうち、患者本人から遺伝子検索の承諾を得たものを対象とした。 2.腫瘍ならびに非腫瘍部からtotal RNAを抽出し、これを鋳型としてcDNAを合成、蛍光ラベルした。テストチップ(テスト2アレイ、Affimetrix社)で良質であることが確認されたものを、DNAチップ(HuGeneFLアレイ、Affimetrix社)上でハイブリダイズさせた。 3.腫瘍、正常組織試料間の蛍光強度差により遺伝子発現プロフィールの相違を検討した。 (結果) 1.淡明細胞腎癌においてadipophilin(細胞内脂質膜蛋白)、Insulin-like growth factor binding protein-3,vascular endothelial cell growth factor, hypoxia-Inducible factor 1α、1βの発現レベルの上昇が認められた。免疫組織化学染色ではadipophilinが淡明細胞癌のいいマーカーであり、色素嫌性腎癌など他亜型との鑑別に有用であることを示した。 2.集合管癌については良好な核酸が得られなかったためマイクロアレイ解析は出来なかった。従来報告されている正常尿細管分節のマーカーを免疫組織化学的に検討したところ、集合管癌ではEMA, E-cadherinが高率に陽性像を示し、LeuM1,N-cadherinといった近位尿細管のマーカーは陰性を示した。特徴的な臨床、肉眼像と合わせて集合管癌の診断の補助となりうる。 3.並行して行っているvon Hippel-Lindau病遺伝子変異と腎細胞癌各種パラメータとの比較検討では、同遺伝子変異が腫瘍発生の初期におこっていること(Kondo, Yao, Nagashima et al.,2001)および散発例の淡明細胞腎癌では同遺伝子変異を有する症例は予後良好であること(Yao, Nagashima et al.,2002)を報告した。
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