研究概要 |
低悪性度B細胞腫瘍(Indolent B-cell malignancy, IBM)では時に腫瘍細胞が大型化するhigh-grade transformation(HT)という現象が生じる。本研究はIBMのHT機構に関与する遺伝子の発現プロファイリングを目的とし、以下の結果を得た。 1.IBMのひとつであるsplenic marginal zone B-cell lymphoma 1例において、HT後では形質細胞マーカーとして知られるMUM(multiple myeloma oncogene)1,CD138および形質細胞腫で異常発現が認められるfibroblast growth factor receptor(FGFR)3の発現亢進が認められ,形質細胞への分化とHT分子基盤の関連が示唆された。FGFR3異常発現を伴う末梢性T細胞性リンパ腫の1例を経験した。ビマン性大細胞型Bリンパ腫の免疫組織化学的検討によりFGFR3とCD138を同時に発現する形質細胞類似の症例を見いだした。CD138陰性例ではFGFR3は核内に陽性となった。チロシンキナーゼ活性を持つFGFR3がリン酸化された形で核内に移行している可能性が示唆された。 2.濾胞性リンパ腫ではHT頻度の高いことが知られている。CD10またはBCL6が陰性の濾胞性リンパ腫ではMUM-1陽性例が多く、びまん性の増殖様式をとる傾向が見出された。HTを伴わない濾胞性リンパ腫再発例では再発の前後でCD10,BCL6,MUM1発現パターンに変化はなかった。しかしFGFR3,CD138の発現は低率であった。少数の濾胞性リンパ腫例の検討ではMUM1陽性群と陰性群でCGH法で染色体増幅の様式に有意な差異は認められなかった。 以上,IBMのHTに関与する機構は多様と考えられた。
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