研究概要 |
成熟F344ラット肝細胞凝集塊をコラーゲンゲル内に包埋培養する肝細胞のorganoid culturesを用いて,肝細胞の胆管上皮様分化のメカニズムを検討した.以下に得られた知見を要約する. 1)基質の影響 Type Iコラーゲンゲル内の肝細胞は,insulin, EGF存在下でcytokeratin (CK)19の発現を伴う樹枝状形態形成を示すが,これらの形質変化はtype IIIコラーゲンゲルにおいてもほぼ同様にみられた.一方,Matrigelを添加すると毛細胆管形成を伴う肝細胞索様構造が明瞭となり,Matrigelの肝細胞分化維持作用が示唆された. 2)チロシンリン酸化シグナル伝達分子の変化 肝細胞形質変化に伴ってERKおよびAktがリン酸化され,これらを抑制することにより形態形成およびCK19の発現も抑制された.肝細胞の化生にRas-MKK-MAPK経路,PI3-Akt経路が深く関わっていることが推察される. 3)Notchシグナル系の活性化 Notchシグナル系は肝内胆管の発生に重要であるとされている.RT-PCR法を用いた検討で,肝細胞におけるJagged1,2,Notch1,さらにNotchのdirect targetsであるHes2,HERP2の発現が増加した.また,免疫染色により培養肝細胞にNotch1,Jagged1の発現が確認された.以上の結果は,肝細胞の化生に伴い,Notchシグナル系が活性化されている可能性を示唆している. 4)CK19遺伝子プロモーター結合蛋白のスクリーニング 開始コドンから203 bp上流のプロモーター領域について10個のプローブ(25bp)を用い,EMSA法で検討したところ,蛋白が結合する部分が3ヶ所同定された.また,この結合はいずれも培養後の肝細胞核抽出物で増加することが判明した.現在,これらの蛋白の同定を進めている.
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