研究概要 |
環境汚染物質として注目されているダイオキシン類及び芳香族炭化水素類(PAH)は細胞内PAH受容体(Aryl-hydrocarbon receptor ; AhR)と会合後核内へ移行し、Aryl-hydrocarbon nuclear translocatorと複合体を形成し薬物代謝酵素CYP1A1等の遺伝子の転写誘導を行う。PAH自体はDNA結合性が無く、CYP1Al、CYP1B1により代謝を受け、究極発癌性物質へと転換し、DNA付加体を形成する。本研究ではAhR遺伝子ノックアウトマウス(AhRマウス)を用い、発癌性PAH類ジメチルベンツアントラセン(DMBA)、ジベンゾ[a, l]ピレン(DB[a, l]P)についてAhRを介した遺伝子活性化経路のマウス皮膚発がん実験系に及ぼす効果について検討を行った。DMBA :腫瘍の発生時期は正常マウスに比べAhRマウスでは2週間ほど遅れて見られたが、25週後の発生頻度は同程度となり感受性の違いは認められなかった。DB[a, l]P ; DB[a, 1]Pの2回塗布により野生型マウスは皮膚毒性の為潰瘍及び過形成が認められたが、AhRマウスは全く反応を示さなかった。DB[a, 1P塗布6日後のS期細胞数増加もまた、AhRマウスは有意に抑制された。腫瘍誘発実験では野生型正常マウスの腫瘍発生率は扁平上皮癌を含む100%であった。しかし、AhRマウスの腫瘍発生は一月遅れで、24週後では30%の発生率であり、全て良性パピローマであった。AhRマウスでの発癌は有意に抑制されていた。興味深いことに高濃度のDB[a, l]P塗布24時間後皮膚でのDNA付加体量を算定したところ、野生型マウスとAhRマウスは2体1の割合で検出された。定量性RT-PCR法によりDB[a, l]P塗布マウス皮膚でのCYP1A1発現レベルを比較検討した結果、AhRマウスでは野生型マウスの約40%の割合で発現誘導されていた。この発がんにはAhRとは無関係にDB[a, l]P投与によりCYP1A1が誘導されDB[a, l]Pを代謝活性化するが、その後の細胞増殖シグナルがAhR経路を介しているため、AhRマウスでは悪性化へのプログレッションが誘導されないことが示唆された。
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