研究概要 |
平成13年度の研究により、Th1サイトカインあるいはTh2サイトカインのシグナル伝達にかかわるStat4およびStat6の敗血症における役割をそれぞれの遺伝子欠損マウスを用いて明らかにした。敗血症による生存率は、Stat4及びStat6欠損マウスとも有意に改善した。メカニズムの解析から、Stat4欠損マウスでは、肝・腎でのサイトカイン反応が抗炎症に有効なTh2タイプにシフトし(IL-13上昇、MIP-2およびKC低下)、そのため臓器傷害が回避されて、Stat6欠損マウスでは、局所のサイトカイン反応が炎症誘導に都合のよいTh1タイプにシフトし(IL-12,TNFα,MDC, C10の上昇)、そのため細菌排除が促進されて敗血症に対し抵抗性を示すことを明らかにした。すなわち、Th1/Th2サイトカインバランスが敗血症時の自然免疫に極めて重要であることを初めて明らかにした。 平成14年度は、まず、Th2型の慢性炎症に関わるとされるケモカインMDC及びC10に着目した。野生型腹腔マクロファージによるMDC・C10産生は、Th2サイトカインIL-4やIL-13により誘導されたが、Stat6欠損マクロファージの場合、その産生量は野生型にくらべ有意に低下した。しかし、IL-1の刺激によるMDC・C10産生量はStat6欠損マクロファージで有意に増加した。このモデルの腹腔局所にはIL-4やIL-13は検出されず、一方、IL-1は大量に検出される。したがって、Stat6欠損マウスの腹腔でみられたMDC・C10の上昇の一因は、局所に存在するIL-1によると考えられた。 敗血症により胸腺細胞にはアポトーシスが誘導される。そこで、この実験系での胸腺細胞のアポトーシスを検討すると、その程度は野生型にくらべStat4あるいはStat6欠損マウスで有意に改善していた。敗血症時の胸腺細胞のアポトーシスはマウスの生存に不利益であることを考えると、Stat4およびStat6欠損マウス胸腺細胞にみられたアポトーシスの減少が、これら遺伝子欠損マウスの生存率改善に寄与した可能性も考えられた。このとき、いずれの遺伝子欠損マウスの胸腺細胞にもCD4(+)CD8(+)T細胞の減少、CD4(-)CD8(+)T細胞の増加が観察され、敗血症後の胸腺細胞の構成にはダイナミックな変化が生じていることも判明した。
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