研究概要 |
Ewing肉腫/末梢型神経上皮腫では染色体転座の結果により生じるEWS遺伝子とetsファミリー遺伝子との融合によるキメラ遺伝子の発現が腫瘍発生の要因と考えられている。etsファミリー遺伝子は多くの器官形成に関与しているが、EWSとのキメラ遺伝子の腫瘍発生における役割は未だ明らかになっていない。本研究はEwing肉腫におけるキメラ蛋白の腫瘍発生における機能を遺伝子レベルで詳細に解析することを目的とした。 【平成13年度】は,キメラ蛋白のターゲットとなる遺伝子の検索をし、候補と考えられる遺伝子とキメラ遺伝子との相互作用について解析した.(1)Gene arrayによるEwing肉腫特異的発現遺伝子の探索:588個の主要遺伝子のcDNA arrayを用いてEwing肉腫細胞およびその他の腫瘍細胞における遺伝子発現を検討した.その結果c-myc, cyclin Dなど腫瘍細胞に共通して高発現していることが確認された.一方,Ewing肉腫細胞ではHLH型分化抑制遺伝子ld2が特異的に発現していたがEwing肉腫以外の腫瘍細胞ではその発現は極めて低かった.そこで,Id2がEWS/etsキメラ蛋白の標的遺伝子の一つとしての可能性を更に詳細に検検討した.(2)Ewing肉腫細胞および腫瘍粗織におけるId2遺伝子発現:Ewing肉腫およびその他の小児固形腫瘍の組織におけるId2遺伝子発現を比較したところEwing肉腫において高発現していることが確認された.(3)標的遺伝子のプロモーターに対するキメラ蛋白の転写活性化作用:キメラ蛋白が標的遺伝子の転写調節領域に直接的に作用するかをreporter assayで測定した結果,Id2遺伝子の5'-転写調節配列はEWS/ets発現ベクターとのcotransfectionによりld2のプロモーター活性を有意に上昇させた. 【平成14年度】平成13年度の研究により分化抑制遺伝子Id2をキメラ蛋白の標的遺伝子の一つと考え,キメラ蛋白とId2遺伝子との相互作用をさらに詳細に解析した.(1)Id2遺伝子のプロモーター配列に種々の変異を導入したレポーターアッセイのよりEWS/etsキメラ蛋白はets認識配列を通してId2遺伝子の発現を促進していることが明らかとなった.さらにキメラ蛋白の方がprorotypeのets蛋白よりさらに強い転写活性化があることが確認された.(2)キメラ蛋白とId2遺伝子プロモーターとの相互作用を解析した結果,キメラ蛋白がId2遺伝子の転写調節配列に直接結合することが明らかとなった.(3)Id2発現をsiRNAによりknock downすると未熟な細胞形態が神経系細胞の形態を示すようになった. この研究によりEWS/etsキメラ蛋白は直接的に分化抑制遺伝子であるId2を活性化することが明らかとなった.キメラ蛋白によって発現の亢進したId2はretinoblastoma protein (RB)と結合しているE2Fを遊撃させ,細胞を分裂増殖へと向かわせると考えられる.一方では,Id2は分化に関与した遺伝子の発現に必要なE蛋白のヘテロダイマー形成を阻害し,正常の組織系列への分化を抑制することが考えられる.即ち,Ewing肉腫ではEWSキメラ蛋白の出現によりc-myc/RB/Id2の遺伝子系列が活性化され細胞増殖へと進む一方,E蛋白による分化が抑制され極めて未分化な形態を示すことと考えられる.Ewing/PNET肉腫発生の分子メカニズムの詳細な解明は分子標的治療法の開発につながるものと期待される.
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