研究概要 |
ヘリコバクター・ピロリが産生する空胞化毒素、VacA毒素は、標的細胞に空胞を形成させ、アポトーシスに至らしめる毒素である。その毒性発現の仕組みを調べる目的で、精製VacAを種々のカラムクロマトを用いて精製し、胃由来株化細胞に作用させた。 環境ストレスや種々のサイトカインに反応するmitogen-activated protein kinase(MAPキナーゼ)のうちp38のリン酸化の亢進が認められ、このp38のリン酸化の亢進を引き起こし、生じるp38のリン酸化活性はp38阻害剤であるSB203580で阻害された。しかし、SB203580はVacAによるミトコンドリア膜電位低下やミトコンドリアからのチトクロームCの遊離等のミトコンドリア障害を阻害しなかった。この結果は、p38のリン酸化の亢進がVacAによる細胞死と関連しないことを示している。他のMAPキナーゼであるErKやJNKの関与について検討している。 VacAをマウスに投与して、炎症への関わりを調べたところ、VacA投与マウスにおける胃粘膜細胞の空胞化とマスト細胞と単球の浸潤を認めた。VacAはマスト細胞に作用しTNFa, MIP-1a, IL-1b, IL6,IL-10,IL-13などサイトカインの産生を促したことから、ヘリコバクター・ピロリ感染における炎症の惹起に関わることが判明した。 さらに、仔牛血清中にはVacAの宿主受容体(RPTPβ)への結合を阻止して、空胞化活性を抑制する高分子糖蛋白質が存在することをはじめて見出した。
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