研究概要 |
MIFは,本来リンパ球のみで産生されマクロファージを活性化すると考えられてきたが,免疫担当細胞に限らず血管内皮細胞など種々の組織でも産生され,多くの炎症性疾患に関与することを発表した.エンドトキシン刺激による劇症肝炎や急性呼吸窮迫症候群のモデル動物を作成して,抗MIF抗体投与により致死率や病理組織学的所見が顕著に改善することやanti-CD3による刺激による解析からMIFがTリンパ球の活性化に必須であることを報告した.さらにアトピー性皮膚炎,膠原病などの難治性疾患の病態に深く関与すること,また脂肪細胞におけるMIFの発現がインスリンやグルコースにより制御されることも示した. 一方,MIFは細胞増殖因子として機能し腫瘍細胞増殖や血管新生に深く関与することも明らかにしてきた.具体的には,ICRマウス由来の癌細胞(Sarcoma180)を用いた皮下移植腫瘍増殖試験において,マウスの背部皮下に移植し,移植後隔日に腫瘍体積の推移を測定したところ,Tgマウスに皮下移植した腫瘍体積はcontrolマウスに比して有意に増加した.また,腫瘍血管新生誘導試験ではSarcoma180細胞を注入したMillipore chamberをマウスの背部皮下に移植し,移植後6日目に腫瘍血管の占有面積を定量的に測定したところ,Tgマウスにおいて血管新生が増強することから,MIFが腫瘍細胞の増殖と血管新生を促進する作用を有すると考えられた.驚くべきことに,9日目以降からTgマウスに移植した癌細胞は退縮し,21日目では完全に消失した.これらのマウスに腫瘍を再度移植しても全て拒絶された.腫瘍免疫を獲得したと考えられ,このことが本研究の主題となる. MIF刺激による細胞内シグナル伝達系についても解析を進め,リウマチ患者由来の滑膜細胞はMIFに感受性良く反応し,matrix metalloproteinase(MMP)1,-3の発現が上昇することから,MIFが直接間接の破壊に関わっていることを示した.MMPの発現上昇のシグナル伝達系に関する研究では、MIF刺激によりsrcの自己リン酸化,MAPKK(MEK)及びMAPK(Erk1/2)の活性化が認められた.またラット心筋細胞,骨髄芽細胞を用いた実験から,MIFの作用はsrc-MEK-MAPKを介することも明らかにした.
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