研究概要 |
NF-κBの活性化はそのインヒビターであるIκBの刺激依存性の分解調節以外に、その主な構成成分であるp65のリン酸化が必要であるという結果が蓄積されつつある。今回我々はp65のリン酸化の意義を明らかにするためにp65-/-マウス由来の胎児線維芽細胞を用い、この細胞にp65の種々のセリンをアラニンに置換した変異体(SA変異体)をレトロウイルスベクターを用いて恒常的に発現させ、それぞれのセリン残基の生理的な役割を検討した。予想に反し、転写活性化ドメイン内に存在するS529,S536,S529/536の変異体導入細胞は野性型のp65を導入したものと比較し、TNFやIL-1刺激によるIL-6産生や、TNF誘導性細胞死に対する感受性についても差が認められなかった。一方、S276A変異体ではIL-6産生の低下およびTNF誘導性細胞死に対する感受性の亢進が認められた。さらに正リン酸ラベルの実験より、S276A導入細胞では野性型p65導入細胞に比較してp65の刺激誘導性のリン酸化が減少することから、S276は刺激誘導性にリン酸化される主なセリン残基であることが明らかとなった。しかしながら、S276A変異体でも、核移行およびDNAへの結合能には障害を認めなかった。また、セリン276をリン酸化するキナーゼを同定するために、これまでにNF-κBの転写の活性化に関与が示唆されているGSK3-β,T2K/NAK/TBK1,AktおよびPKAcなどを一過性に発現させ、免疫沈降後にGST-p65 (1-305)を基質としたインビトロキナーゼを行ったが、いずれのキナーゼもGST-p65(1-305)に対するリン酸化能は認められなかった。しかし、種々のキナーゼインヒビターを用いた実験からは、Akt, ERKやp38MAPKのインヒビターであるLY294002,PD98059,SB203580処理によりTNFあるいはIL-1刺激によるIL-6産生の抑制が認められることより、これらのキナーゼの下流にS276 kinaseが存在する可能性もあり、今後検討していく予定である。
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