研究概要 |
福岡県久山町において,1961年から継続中の疫学調査の成績より以下の項目を検討した. (1)1988年に設定した第3集団のうち,75g経口糖負荷試験を受けた40-79歳の集団2,424名を11年間追跡した成績より,耐糖能異常(1998年WHO診断基準)と脳梗塞発症との関係を検討した.その結果,男性は糖尿病が,女性はimpaired fasting glycemia(IFG)が脳梗塞発症の有意な危険因子となった.糖尿病に至らない軽度の血糖上昇も脳梗塞の危険因子であることが示唆される.(2)1961年に設定した第1集団と1974年に設定した第2集団をそれぞれ13年間追跡した成績より,耐糖能異常と悪性腫瘍死との関係を両集団間で比較した.その結果,第1集団の男性では両者の間に明らかな関係はなかったが,第2集団では耐糖能異常は悪性腫瘍の有意な危険因子となった.つまり,時代とともに耐糖能異常と悪性腫瘍の関係が増強していることが示唆された.(3)第3集団のうち75g経口糖負荷試験を施行した2,487名(受診率約80%)を5年間追跡し,耐糖能レベルと悪性腫瘍死亡との関係を検討した.その結果,糖尿病は男女で悪性腫瘍死の有意な危険因子であった.また,空腹時および負荷後2時間の血糖値の上昇も,男女で悪性腫瘍死の有意な危険因子となった.この関係は、多変量解析において他の危険因子を調整しても変りなかった.以上より,最近の地域住民では,糖尿病は悪性腫瘍死の有意な危険因子であることが示唆された.(4)第3集団のうち40歳以上の2,466名を対象とした追跡調査より,胃癌発症に及ぼす空腹時血糖値の影響を検討した.その結果,血糖値の上昇とともに男女で胃癌発症率が有意に上昇した.この関係はヘリコバクターピロリ菌感染者のみに認められた.以上より,血糖の軽度上昇は胃癌発症の有意な危険因子であることが示唆された.空腹時血糖上昇とヘリコバクターピロリ菌感染の間には相乗効果があると考えられる.
|