研究概要 |
死体硬直は,通常は下行性に発現するものとされているが,その原因はいまだわかっていない.研究代表者らは,筋線維タイプの割合が死体硬直に影響を与えることを発見し,筋線維タイプの割合が筋肉間で異なることが死体硬直の下行性の原因の一つではないかと考えた.流動パラフィンに筋肉を浸漬することによって死体内環境のモデルを作成するとともに,いくつかのラットの筋肉の筋線維タイプの割合をATPase酵素組織化学により調べた.筋肉内のリン酸化合物濃度の死後変化を,^<31>P-nuclear magnetic resonance(NMR:核磁気共鳴装置)を用いて調べたところ,赤筋内のクレアチンリン酸とATPは白筋内よりも速く減少することがわかった.また,stiffnessおよび硬直性張力についても調べたところ,同様に多くの筋肉で赤筋のほうが白筋よりも上昇が速かった.これらの変化は温度により強く影響された.これより,赤筋の死体硬直は白筋より速く進行すること,そしてそれが温度により強く影響されることが明らかとなった. 顎関節をとりまく咀嚼筋の赤筋線維が太く特殊な線維であること,および,ヒト死体において上下肢の冷却が体幹部よりも速いことから,本研究の実験結果とあわせて考えると,顎関節の硬直が速く進行し,四肢の硬直が遅く進行する可能性が考えられた.よって,ヒト死体内の筋肉間での筋線維タイプの割合の違いおよび温度変化の違いが,死体硬直の下行性の原因となっている可能性が考えられた.
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