研究概要 |
本研究は分子生物学的手法を用いて溺死の診断を行う新しい試みであり、溺水中に存在する海洋細菌を指標とした。平成13年度には、海洋細菌Listonella anguillarumを検出するためのPCR法について検討し、ヒトのDNAと交叉性を示さず、且つ高感度なPCR法の諸条件を決定した。平成14年度は、先ず他の細菌との交叉性について検討した。即ち、通常死後に血液中で増殖する細菌の優勢種はヒトの常在菌といわれることから、日和見感染の原因菌として知られる10種(Escherichia coli, Enterococcus faecalis, Klebsiella pneumoniae, Serratia marcesceus, Staphylococcus aureus, Pseudomonas aeruginosa, Bacillus subtilis, Proteus vulgaris, Streptococcus pyogens, Hemophilus influenza)の細菌について、本法の交叉性を検討した。その結果、本法は何れの細菌とも交叉性を示さなかった。更に、海水を一定量血液に添加し、経時的(0h、6h、12h、24h、3d、5d、7d)にその検出が可能か否かについても検討した。その結果、海水を血液に添加したサンプルでは、検討した7日間全ての例においてListonella anguillarumが検出された。また、上記の海水を添加した血液サンプルを平板培地で培養すると暗所でウミホタルのように発光する細菌の存在が観察された。更にこの発光細菌は河川水、水道水、泥水等を血液に添加したサンプルでは認められず、海水に特異的に棲息する細菌であることが示された。従って、発光細菌の存在は海水溺死の指標に成りうるものと考えられた。 以上の結果から、海洋細菌の検出は溺死の簡便なスクリーニング検査として有用であることが示唆された。今後、実際の解剖事例における血液及び臓器などからの検出を行い.実用性を明らかにし論文としてまとめる予定である。
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