研究概要 |
パラコート(PQ)は20mg/kgを1回腹腔内投与した。この暴露処理によって2週間後の肺臓に顕著な病変が観察される。われわれは,極初期における分子レベルでの変化をみる目的で投与後3時間での変化を主に調べた。1年目はdifferential display(DD法)によって20の遺伝子を抽出,最終的にはTAFIIBとLpin2の遺伝子について詳細な検討を行い,Clara細胞との関連を示唆した。2年目ではDD法をさらに改良し,主に4つの遺伝子,phospholipid transfer protein, lactrophiline, alpha-II spectrin, KIAA0391について詳細な検討を加え,これらの遺伝子群がパラコートの肺障害の極初期に関与する可能性を示した。lactrophilineではin situ hybridizationによって発現の局在を明らかにした。3年目ではDNA arrayでup-regulateする遺伝子を14,down-regulateする遺伝子を15検出し,とくに変化の大きな遺伝子について詳細な検討を加えた。その結果,PQ毒性で変化が期待されるthioredoxin, platelet-derived growth factor(PDGF),glutathione S-transferase, SODなどの遺伝子において有意な発現促進が確認された。さらに一部のチトクロムP450(CYP)で興味ある結果が得られた。すなわちCYP2c6,CYP2c7,CYP2c12は、正常群の肺での発現は非常に低いが,PQ暴露で有意に促進した。この変化は,肺に特異的であり肝臓ではわずかに促進を示すが,腎臓では反対に抑制傾向を示した。また、これらはいずれも3hrで発現変化のピークを示し,PQ 3hr暴露の肺でのCYP遺伝子発現への影響が,PQに特異的な肺毒性のブレイクスルーになる可能性が示唆された。
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