研究概要 |
あるサイトカインを用いて免疫細胞を刺激すると、マスト細胞のアポトーシスを誘導する因子が細胞培養上清に発現していることが判明した。さらに、欠損マウス、中和性抗体、組換えサイトカイン、およびRT-PCR法等によって、このアポトーシス誘導因子は既知のTNF-α,TNF-β,TRAIL,Fas/FasL,Perforin等のアポトーシス誘導因子ではないことが明らかになった。本研究はこの未知のアポトーシス誘導因子の同定およびクローニングを目的とするものである。今まで、以下二つの方法で研究を推進してきた。先ず、刺激したマウス免疫細胞と刺激しなかったものからmRNAを抽出し、cDNAを合成した。cDNAサブトラクション法を用いて、このサイトカイン刺激によって発現されるcDNA断片をTAクローニング法でクローニングした。クローンされた200以上のcDNA断片の塩基配列を分析した結果、アポトーシス誘導活性を示すものは見られなかった。次に、アポトーシス誘導活性を指標とするスクリーニング法を用いた。ZAP Express cDNA Synthesis KitとcDNA Gigapack III Gold Cloning Kitを用いて、cDNAファージライブラリーを構築した。このライブラリーから、50-100 Coloniesを単位として、Phagemidsを分離し、COS-7細胞に発現させ、培養上清を収集し、アポトーシス誘導活性を調べた。約10,000個のColonyを調べたが、アポトーシス誘導活性を持つColonyは見られなかった。以上述べた二つの方法で、アポトーシス誘導因子の同定とクローニングはいずれも成功することができなかった理由を反省し、従来の方法では成功する可能性が非常に低いことを認識した。そして、我々はプロテオミクスと称される新たな技術と戦略に注目した。近年の質量分析法の進展によって、微量のタンパク質を多大な時間と労力を要して精製し、ペプチドシークエンサーで配列を読んでいた時代から、微量タンパク質でもきわめて高精度に、修飾まで含めて同定できる質量分析の時代に移っている。この進展は、我々のアポトーシス誘導因子の同定とクローニングについての研究にも成功する兆しが示唆されるので、この研究は現在進行中である。
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