研究概要 |
本研究では,α1-6フコース転移酵素,III, IV, V型グルコサミン糖転移酵素のアンチセンスオリゴヌクレオタイドなどの糖鎖転移酵素阻害剤の組み合わせを用いた肝癌細胞biological behaviorの調節手技を確立し,これらの手技を用いて癌細胞の分化誘導ならびに脱悪性化を目的とした肝細胞癌の治療を試みることを目的とした.はじめに,α1-6FTフコース転移酵素(α1-6FT)活性の抑制による糖鎖構造の変化と,それに伴う肝癌細胞の浸潤動態の変化を,α1-6FTのノックダウンされた細胞系列を樹立することによって評価することを試みた.α1-6フコース転移酵素(α16FTのアンチセンスRNAによる発現抑制実験として,本酵素のmRNA(GenBank Accession No.D89289)の861〜874塩基,5'-CACTCATCTTGGA-3',に対するセンスならびにアンチセンス合成RNAを用いた.各RNAは,リボースの2'位のOHに対し2-methoxyethylを結合させ,また,ヌクレオチドのリン酸基の非結合酸素をS原子に置き換えるphosphorothioate修飾を加えた.HepG2細胞を48時間培養した後の培養上清中のアルファーフェトプロテイン(AFP)濃度とそのフコシル化分画は,2.8±0.29ng/ml,84.6±3.4%であった.FuGENE6(Roche, USA)を用いて上記のセンス,あるいはアンチセンスRNAをHepG2細胞にリポフェクションにより導入し,24時間後に培養上清を回収,さらに培養を続け48時間後に培養上清ならびに細胞を回収した.センス,アンチセンス,ならびにFuGENE6単独の各群を調整し,各培養上清中のAFP濃度とフコシル化分画を測定した.各群における24時間後,48時間後のAFP濃度はそれぞれ,5.2ng/ml,2.4ng/ml(センス),3.6ng/ml,1.8ng/ml(アンチセンス),7.6ng/ml,3.7ng/ml(FuGENE6)であった.次にAFP濃度を20ng/ml程度まで濃縮し,フコシル化分画を測定した.各群のフコシル化分画は,77.4%,79.7%(センス),80.4%,70.1%(アンチセンス),79.0%,80.8%(FuGENE6)であり,アンチセンス導入群の48時間後に採集された培養上清中でフコシル化分画が低下している事が示唆された.α16FTに対するアンチセンスRNA導入によりAFPのフコシル化が抑制されることが示唆されたので,次にα16Frに対するsmall interfering RNA(siRNA)の持続発現により,AFPのフコシル化が安定して抑制されるsiRNA持続発現株の樹立を試みた.α16FTmRNAの1002塩基のAA配列に続く19塩基配列からなる配列を,polymerase-III H1-RNA gene promotorの制御下に,ポリA配列を欠き3'端にUU突出を有するRNAが転写されるベクターであるpSUPER.retro(Oligo Engine, USA)にクローニングした.また,配列特異的発現抑制を確認するため,19配列の第9塩基をGからAに置換した変異配列も同時にクローニングした.現在これらのベクターをHepG2細胞に感染させ,持続発現株を樹立している.
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