研究概要 |
我々はこれまで肝細胞癌の発症分子機構の解明において肝癌細胞のアポトーシス抵抗性のメカニズムを明らかにしてきた(Y.Shima et.al.Hepatology 30:1215-1222,1999.K.Hamasaki, et.al.J Gastroenterology 36:111-120,2001.H.Tamura, et.al.Internat J Mol Med 11:369-74,2003)。さらにアポトーシス抵抗性細胞集団の中から発ガン性のヒット(即ち遺伝子変異)を有する細胞が出現する過程に特異的なシグナル伝達を解明した(N.Mitsutake, et.al.Oncogene 20:989-996,2001)。そこでいわゆる前癌病変細胞は幹細胞由来であるかどうかを明らかにすることを目的としてさらに現在研究を続けている。先ず実際のヒト肝癌病変の周囲の非癌部組織において、クローナルな細胞増殖が見られるかどうかを、マイクロダイゼクション技術を用いHUMARA assayにて検討中である。HUMARA遺伝子はX染色体に位置し,メチル化により女性では父系と母系の遺伝子が細胞ごとにランダムに不活性化を受けている.腫瘍の場合一方のみが一定して不活性化を示し組織のクロナリティーの指標となる。一方、発ガンのヒットとして放射線を用い、放射線照射で誘導される遺伝子レパートリーをSubtraction PCR法により検索した。特にそのなかで細胞周期のM期を調節する機能が推測されているpolo-like kinase family遺伝子をクローニングした(Y.Shimizu-Yoshida, et.al.BBRC 289:491-498,2001)。またそれらがAuroraBと関連あることを見い出した(Oncogene 21:3103-3111,2002)。次に幹細胞ヒット仮説を化学肝発癌において検証する目的で、DEN発ガンラットモデルを作成し、解析を行い、C-Abl, PDGF-Rbeta, Argといったチロシンキナーゼ遺伝子が重要であることを発見した(H.Kuroda, et al.Internat J Mol Med 9:473-480,2002,未発表データ)。更にヒットした幹細胞のミトコンドリアに異常が見られる可能性を検討した(Cancer Res 62:7031-7041,2002)。しかしこれらの研究はまだ進行中であり、多くの未解明な事象があり、今後の発展が期待される。
|