研究概要 |
IRF2遺伝子欠損マウスでは合成二重鎖RNA投与によって再現よく急性膵炎が惹起されるが、この本態は電子顕微鏡やTUNEL染色による検討からアポトーシスであることを確認した。また、他の諸臓器においては肝臓で一部細胞浸潤が見られる他は異常が見られず膵臓特異的な現象であると言える。アポトーシスが惹起されることからアポトーシス関連遺伝子の2'5'OAS, PKR, ICE, FasやFasリガンドの膵臓での発現を検討したが異常は見られていない。また、二重鎖RNAの受容体と言われるTLR3を含めたTLRファミリーの膵臓での発現にも異常は見られていない。これまでに検討した中でIRF2遺伝子欠損マウス特異的に発現の異常が見られたのはPSTI(pancreatic secretory trypsin inhibitor)の異常昂進のみであり、合成二重鎖の刺激の有無にかかわらず見られた。恐らくこれは慢性の膵炎にたいするネガティブフィードバック機構が働いているためと思われる。一方、CCK類似体であるcaerulein投与による膵炎発症実験では、IRF2遺伝子欠損マウスは極めて耐性であることからCCK受容体を介したシグナル伝達に異常があると考えられる。ただしCCK受容体発現には異常はみられていない。IRF2遺伝子欠損マウスでは少量のインターフェロンが局所で出ていることが示唆されているが、インターフェロン受容体I型とIRF2の二重遺伝子欠損マウスにおいても膵炎は惹起されるところからインターフェロンの関与は薄いと考えられる。またTNF受容体p55欠損マウスとIRF2の二重遺伝子欠損マウス結果からTNFの関与も否定的である。この膵炎は野生型マウスへのdominant negative IRF2アデノウイルスベクターの感染でも再現できる。また、誘導は合成二重鎖RNAではなく抗エイズウイルス薬として用いられるヌクレオチド系逆転写酵素阻害剤のジダノシンにても起こることを予備実験で確認できたことからIRF2がない状態の膵臓ではウイルスやヌクレオシド系物質に感受性が高くなっていると予想される。
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