研究概要 |
研究目的:正常上皮細胞は,相互に接着するとその増殖を停止すること,すなわち接触阻害を示すことが古くから知られてきた.癌細胞においても,完全ではないが,細胞同士が密に接着することにより,増殖が抑制される現象(contact dependent growth suppression)があることが明らかになってきた.しかし,その増殖停止シグナルが細胞表面からどのように伝達されるのか,詳細な機構は未だ明らかでない.我々はこれまで,Eカドヘリンのみならず,その裏打ち蛋白であるβカテニンが接着に極めて重要な役割を担っていることを,遊離細胞として増殖し続けるヒトスキルス胃癌株HSC39(βカテニンに異常がある)を用いて証明してきた(Mol Cell Biol 1995 Mar;15(3):1175-81).最近我々は,このHSC39細胞から細胞接着性を示す亜株HSC39Ad細胞を分離することに成功した.そこで本研究では,HSC39Ad細胞を用いて,Eカドヘリン依存性contact dependent growth suppression機構の全容を解明することにより,癌の増殖・進展における接着阻害の意義を明らかにすることを目的とする.研究成績:1)HSC39Ad細胞が,なぜ接着能を有するのかを検討する目的で,3種のカテニンをウエスタンで検出した.その結果,HSC39Ad細胞におけるαおよびγカテニンの発現は,親株と比較してそれぞれ約1.7倍と2.0倍と,明らかな増加が認められた.また,HSC39Ad細胞が発現するβカテニンは,親株と同様な欠損型であった.2)HSC39Ad細胞において,発現の亢進したγカテニンrがβカテニンを補っている可能性を検討する目的で,HSC39Ad細胞におけるγカテニンの発現を,特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチドで抑制した.その結果,HSC39Ad細胞の細胞接着は抑制され,増殖能は亢進した.更に,p21/WAF1の発現は低下し,非脱リン酸化型のRbは滅少した.3)Eカドヘリンおよびγカテニンからp21/WAF1および脱リン酸化型Rbの滅少へ至る増殖抑制のシグナルが,Rhoを介する可能性を検討する目的で,HSC39AdをEカドヘリン中和抗体で処理したところ,Rhoの活性化が観察された.また,γカテニンに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドで処理した際にも同様の結果が得られた.更に,Rhoの阻害剤であるC3を添加すると,Eカドヘリン中和抗体によるp21/WAF1の発現滅少および増殖能の亢進は抑制された.結論:以上,本研究において我々は,Eカドヘリンとγ,αカテニン複合体からシグナルされる接着阻害は,Rhoおよびp21/WAF1を介することを明らかにした.
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