研究概要 |
潰瘍性大腸炎ではbasal plasmacytosis(潰瘍基底部での形質細胞の著明な増加)、クローン病では非乾酪性の肉芽腫形成がそれぞれの代表的な病理組織学的所見であることはよく知られている。両疾患の病因・病態の解明にはそれら病変において惹起されている免疫反応の解明が不可欠であるが、未だその詳細は不明のままである。我々はKi67+で示される増殖細胞に着目し、それら病変で惹起されている特徴的な免疫反応の解明を試みた。そして、既にクローン病の肉芽腫が抗原特異的な免疫刺激の場として機能し(Hara J et al.Lab Invest 1997)、本症の特徴とされるTh1優位の病態形成に密接に関係していることを報告した(Kakazu T, et al.Am J Gastroenterol)。 今回はさらに、Th1優位の病態形成とケモカインの関与について検討した。 (1)T細胞のホーミング、並びに樹状細胞との相互作用に関係するケモカインSLC(CCL21)とELC(CCL19)の炎症性腸疾患における発現を免疫組織化学的に検討した。SLCとELCは病変局所における発現は乏しく、クローン病の腸間膜リンパ節で潰瘍性大腸炎に比べ著明な発現の増加が観察された。SLCはT細胞領域のHEVとリンパ管、樹状細胞に、ELCは成熟樹状細胞に発現しており、これらケモカインがクローン病病変局所におけるTh1有意の病態形成に深く関係していることが示唆された。(Kawashima D, et al) 次に潰瘍性大腸炎においてKi67+で示される増殖リンパ球についても検討を行った。 (2)潰瘍性大腸炎の潰瘍底では、クローン病では見られないCD19+、CD20-B細胞の著明な増殖(basal plasmcytosis)が観察された。同細胞はCD138+で細胞質に豊富な粗面小胞体を有することから、未熟な形質細胞と判断された。これら病理組織学的所見は、臨床的な活動性やステロイド治療に対する抵抗性と有意な相関も認められた。(Jinno Y, et al) (3)そしてさらに、潰瘍性大腸炎の活動期潰瘍底で観察された特徴的な未熟形質細胞の増殖反応を、虫垂においても検討した。潰瘍性大腸炎では活動期のみならず寛解期においてもCD19+、CD20-、CD138+の未熟な形質細胞の増殖が、クローン病、急性虫垂炎、大腸癌患者の健常虫垂に比べ、有意に増加が確認され、本症の再燃t機序との関連が示唆された。(Kawachiya T, et al)
|