研究概要 |
クラリスロマイシン(CAM)が進行肺癌患者の生存期間を延長させることや,14員環マクロライドが気道上皮細胞を含めた種々の細胞に対して免疫調節的な作用を有していることが最近報告されている.この結果より,我々は14員環マクロライドが抗癌活性を有しているのではないかと仮定した.この仮説を検証するため,我々は抗癌剤のヒト非小細胞肺癌(NSLC)細胞へのアポトーシス誘導作用に対するマクロライド抗生物質の効果を検討した.腫瘍細胞は14員環マクロライド(CAM,エリスロマイシン)あるいは16員環マクロライド(ジョサマイシン,ミデカマイシン)存在下で3日間培養した後,シスプラチン(CDDP)あるいはドキソルビシン処理を行った.14員環マクロライドは両者共に野生型p53を有するNSLC細胞(RERF-LC-MS, A549,EBC-1,SQ-5)に対する抗癌剤のアポトーシス誘導作用を増強した.しかしながら,16員環マクロライドには同様の作用は認められなかった.p53を欠失したNCI-H358細胞に対しては,抗癌剤単独あるいは14員環マクロライドと抗癌剤を組み合わせてもアポトーシスを誘導できなかった.抗癌剤は野生型p53を有するNSLC細胞の細胞表面にFasとFasリガンドを誘導したが,14員環マクロライドを組み合わせることによりその作用はさらに増強した.ドミナントネガティブp53蛋白を発現するベクターによる野生型p53を有するNSLC細胞の前処理はCAMとCDDPによって誘導されるのアポトーシスを抑制した.CAMは野生型p53を有するNSLC細胞のP糖蛋白の機能を抑制した.14員環マクロライドは野生型p53を有するNSLC細胞のp53の蛋白レベルを上昇させた.以上より,14員環マクロライドは抗癌剤のヒトNSLC細胞へのアポトーシス誘導作用をp53依存性に増強させていることが明らかとなった.
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