研究概要 |
タイラーウイルス持続感染による脱髄は,ヒトの脱髄疾患である多発性硬化症の実験モデルとして用いられているが,その持続感染や脱髄の詳細な機構は解明されていない。本研究では持続感染や脱髄を引き起こすDA株を代表とする慢性亜群でのみ特異的に産生されるL*蛋白の遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを作製し,L*蛋白の脱髄発症機序の解明を目的とした。まずMHC classIプロモーターおよびiNOSプロモーター下流にL*蛋白cDNAを組み込んだコンストラクトを作製しFVB/NJマウスへの導入を試みたが,プロモーター活性が弱くL*蛋白の発現がみられなかった。このため強力なβアクチンプロモーターに変更し,さらにL*蛋白の上流にKozak配列を挿入したコンストラクトを作製した。このコンストラクトのin vitroでの非常に強いL*蛋白の発現を確認し,マウスへの導入を行ったが,in vivoでの発現はほとんどみられなかった。このためレンチウイルスベクターにL*蛋白cDNAを組み込んだコンストラクトを作製し,これを慢性期のタイラーウイルスの主たるリザーバーと考えられるマクロファージの樹立細胞株J774に導入してL*蛋白発現細胞抹を樹立した。L*蛋白を産生しない変異株DAL*-1をJ774に感染させても増殖しないが,L*蛋白発現細胞J774ではDA株と同様の増殖を示したことから,L*蛋白はDA株のマクロファージにおける増殖に重要であることが明らかとなった。さらにL*蛋白の上流にFLAGエピトープを挿入した組み換えウイルスを作製し,生体内でのL*蛋白の発現を検討した結果,急性期にはマウスの脱髄感受性にかかわらず脳内感染細胞,とくに神経細胞でのL*蛋白の発現が確認された。このことから,ウイルスの持続感染・脱髄にはL*蛋白の発現だけでなく他の因子が関与していることが明らかとなった。
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