研究概要 |
麻酔・開胸したブタにおいて、右心房ペーシングを行い心拍数を一定にし、β遮断剤(esmolol:400-500μg/kg/min)α刺激剤(phenylephrine:200-300μg/kg/min)を点滴静注し、左室機能低下を形成したところ、機能性僧帽弁逆流が出現した。ペーシングモードを右心房・右心室ペーシングに変更し左脚ブロックを作成したところ、左室最大+dP/dtも-dP/dtも有意に減少し(+dP/dt:1192±30vs. 874±178mmHg/sec,P<0.01,-dP/dt:-829±78vs. -744±148mmHg/sec,P<0.01)、左室機能低下は高度となった。このペーシングモードを変化させる前後で僧帽弁逆流をProximal Isovelocity Surface Area法で定量化したところ、僧帽弁逆流量は有意に増加した(4.2±2.4 vs. 12.0±2.7ml/beat,P<0.01)。従って、右心房ペーシングを右心房・右心室ペーシングに変更することにより左室機能(dP/dt)は有意に低下し、それに伴い僧帽弁逆流量も有意に増加した。さらに左室ペーシングを加えることにより、左室機能を改善させようと試みたが、左室最大+dP/dtも-dP/dtも改善せず(+dP/dt:874±178 vs. 798±64mmHg/sec,n.s.,-dP/dt:-744±148 vs. -681±61mmHg/sec,n.s.)、僧帽弁逆流量も減少しなかった(12.0±2.7vs. 13.0±5.1ml/beat,n.s.)。 本研究により、「ペーシングにより左室dP/dtが減少すると僧帽弁逆流量は増加する」ことが示され、本研究の仮説「両室ペーシングにより非同期心を再同期させることにより左室+および-dP/dtが改善されるとともに機能性僧帽弁逆流が軽減する」と合致する結果が得られた。しかしながら、本研究では両室ペーシングにより心機能(左室+および-dP/dt)が改善せず、僧帽弁逆流も軽減しなかった。臨床例でも両室ペーシングが効果的なのは心不全例全体の半数以下であることが報告されており、本研究の結果はこれらの臨床事実と矛盾しない。しかし、両室ペーシングにより左室機能が改善すると機能性僧帽弁逆流が軽減するということの確認はできておらず、今後の課題となると思われる。
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