研究概要 |
本研究は、新生仔ブタの低酸素虚血(Hypoxia-Ischemia,以下HI)脳障害モデルを用い,軽度低体温と薬物の併用療法により,将来臨床応用可能な新生児仮死の脳保護法を開発することを最終目的とする.今回は,低体温の冷却方法の相違による脳および体循環動態におよぼす影響について検討した. 日齢3未満の新生仔ブタを対象とした.酸素濃度15%,換気数15回/分,および両側総頸動脈閉塞を60分間継続(HI負荷)した後,両側総頸動脈閉塞を解除し,酸素濃度100%,換気数60回/分で10分間蘇生した.蘇生後24時間,低体温療法を施行した.選択的頭部冷却群では鼻咽頭温35.5℃,直腸温38.5℃,全身冷却群では,鼻咽頭温,直腸温とも35.5℃,常温群では鼻咽頭温,直腸温とも38.5℃を目標温とした。その後1℃/1時間の速度で復温し,さらに24時間観察した.HI負荷中および蘇生後48時間において,脳波(EEG),脳組織酸素化指標(TOI,近赤外線分光法),局所脳血流(rCBF,レーザードップラー法),経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2),血圧(MABP),心拍数(HR),血液ガス,血糖,直腸温および脳温(鼻咽頭温)をモニターした. HI負荷ですべてのブタにrCBF低下,EEG振幅低下,TOI低下が観察され,蘇生後それらはHI負荷前値に戻る傾向を示した.脳波の振幅は蘇生後数時間後に再び低下傾向を示し,「二次性(遅発性)エネルギー代謝不全」と同様な経過を示した.低体温導入および維持中,rCBF, TOI,脳波SpO2,血圧,心拍数,血ガス,血糖において選択的頭部冷却群と全身冷却群に有意な差は認めず,また,復温前後の比較においても各パラメーターに有意な差は認めなかった.HIEモデルにおいて,選択的頭部冷却では鼻咽頭温を低下させると直腸温も0.5〜1.0℃低下したが全身冷却では鼻咽頭温と直腸温は一致し,温度管理は容易であった.選択的頭部冷却そのものは,脳血流,脳酸素化,脳波,SpO2,血圧,血液ガス,血糖に有意な変化を与えず,復温でも影響はなかった.また,選択的頭部冷却と全身冷却との比較において,低体温導入,維持,復温時の脳および体循環におよぼす影響は両群に有意な差はなく,今回測定したパラメーターに関しては全身冷却の副作用は明らかではなかった.
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