研究概要 |
腫瘍の低酸素状態は,放射線抵抗性を誘導するばかりでなく,腫瘍自体の転移や浸潤といった悪性化を引き起こすとされている.腫瘍内の低酸素状態を非侵襲的に評価することにより,癌治療の個別化を図れる可能性が広がる. (1)実験腫瘍を用いて低酸素分画の定量化を種々の方法で試みた.まず始めに,酸素濃度測定用電極を腫瘍内に刺入して実際の酸素濃度を測定した結果,大きな腫瘍では,腫瘍内酸素濃度は有意に低下していた.^<31>P-MRSによる腫瘍内の高エネルギー燐酸代謝は,腫瘍内低酸素状態を間接的に反映するとされている.この方法は感度が高いが,小さな腫瘍では正常組織の信号が混入するためばらつきが大きく,また1g以上の大きな腫瘍では無機燐の信号が大きくなるため詳細なエネルギー代謝の評価は困難であった.次に低酸素細胞マーカーであるβ-D-IAZGPの投与により低酸素細胞分画の評価を行った.シンチグラムを撮像した結果,24時間後に腫瘍に特異的な集積が認められた.腫瘍内の低酸素細胞マーカーの取り込みは血液の約8倍を示し,他臓器に比べ中枢神経への分布が有意に低かった.種々の大きさの腫瘍で,薬剤の取り込みについて見ると,大きな腫瘍は低酸素細胞マーカーの取り込みが有意に高かった.担癌マウスの腫瘍組織に放射線照射を行い,in vitroで放射線感受性を評価した結果,大きな腫瘍は低酸素細胞分画を多く含み,放射線抵抗性であることが明らかとなった. (2)低酸素状態と腫瘍の悪性度との関連を明らかにするために,皿期子宮頸部扁平上皮癌の生検組織を用いて,HIF-1αの発現と放射線治療効果について検討した.5年非再発生存率は,HIF-1陽性群で41.2%,陰性群で75.6%であり,有意な差が認められた.特に遠隔転移率において,強い相関が認められ,HIF-1の発現がIII期子宮頸癌の悪性度と相関があることが明らかとなった.
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