研究概要 |
ヒト末梢血リンパ球は、放射線照射に対して高い感受性を示し、人類はもちろん哺乳類が放射線に弱いことの大きな原因となっている。末梢血リンパ球は、通常は分裂・増殖を行わず、また、未分化でもないことから、その放射線高感受性の原因については、これまで放射線生物学の概念にあてはまらないものとして、その解明が期待されてきた。我々は、末梢血Tリンパ球は、5Gy照射13時間後には初期アポトーシス{Annexin V陽性)となり、24時間後には後期アポトーシス(Propidium Iodide)陽性となることを示してきた。また、ミトコンドリア膜電位変化は、5Gy照射10時間後には約半数のリンパ球で起こり、これに続いてcytochrome cの放出を認めた。今回ミトコンドリア膜電位変化を来す原因を追求するため、酸化的DNA損傷の起こる線量・時期・程度について検討した。方法としては、正常人の末梢血Tリンパ球を分離し、10MVエックス線を0Gy,2Gy,5Gy,20Gy照射した。照射1,3,6,10時間後にDNAの酸化損傷についてBiotrin OxyDNA Assayを用いて8-ヒドロキシ-dGの生成について検討した。結果として、8-ヒドロキシ-dGの生成は、2Gy照射では10時間後、5Gy照射では6時間後、20Gy照射では3時間後に多く認められ、ミトコンドリア膜電位変化に先行して起こることが示され、放射線感受性のメカニズムの解明には、酸化的DNA損傷を惹起する活性酸素の産生およびその消去機構の検討が必要である。
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