研究概要 |
放射線(X線)照射後のがん細胞ミトコンドリア代謝の経時的変化を(1)ミトコンドリア代謝の亢進した細胞に集積する放射性医薬品Tc-99m hexakis-2-methoxy-isobutyl-isonitrile(MIBI)を用いて,また(2)ミトコンドリア膜電位をシアニン色素であるDiOC6(3)(3,3'-dihexyloxacarbocyanine iodide)を用いてflow cytometryにて測定することにより,検討した.細胞はヒト肺癌細胞A549を使用した.さらに照射後のがん細胞ミトコンドリア代謝に及ぼす,細胞周期の影響および照射前後に温熱処理(温熱療法)を加えた場合の影響をそれぞれ検討した. 1.3Gyおよび9Gy照射1時間後にTc-99m MIBIの細胞集積はコントロールに比し,それぞれ10.5+/-1.6%,16.8+/-5.6%増加した(p<0.01).その後,いったんコントロールと同程度の集積を示し,9Gy照射8時間後に再び14.6+/-3.6%と増加した(p<0.05).しかし3Gy照射群では第2のピークは生じなかった. 2.フローサイトメトリによるDiOC6(3)を用いてミトコンドリア膜電位を測定すると,3Gyおよび9Gy照射直後に膜電位はコントロールに比し,それぞれ5.0+/-2.1%(p<0.05),5.6+/-3.0%と増大した.その後,3Gy照射群ではコントロールと明らかな差はみられなかったが,9Gy照射群では,照射8および12時間後にコントロールに比較してそれぞれ13.1+/-2.l%,15.9+/-1.3%(p<0.01),膜電位は減少した. 以上1,2からX線照射後にがん細胞ミトコンドリア代謝は一過性に亢進し,その後低下していくことが示された. 3.放射線照射後のG2-blockを阻害する薬剤caffeineを用いて,細胞周期とミトコンドリア代謝の関連を検討したが,caffeineの有無によるミトコンドリア膜電位の有意な変化はみられず,ミトコンドリア代謝は細胞周期に非依存性であることが示唆された. 4.照射直前または直後の加温処理により照射後のミトコンドリア膜電位の一過性増大は遷延して出現すること,またこの膜電位の増大は放射線照射による細胞障害からの修復に先行するかたちで生じることが示された.
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