研究概要 |
カイニン酸の脳局所投与による側頭葉てんかんモデルを用い,歯状回顆粒細胞新生のてんかんにおける役割を検討した.ラットの左側扁桃核に慢性ガイドカニューレを挿入手術し,カイニン酸を扁桃核に微量投与した.ラットをカイニン酸のみを単独に投与したグループ,非競合性NMDA受容体拮抗薬のMK-801を1回前処置したグループ,MK-801を3回処置したグループに分けた.これらのグループ間で,NMDA受容体拮抗薬の願粒細胞増殖と錐体細胞脱落に対する効果を検討した.海馬歯状回顆粒細胞層におけるbromodeoxyuridine (BrdU)陽性細胞数を免疫組織化学法で検出し,CA1,CA3領域における細胞脱落を評価した.カイニン酸注入側CA1およびCA3領域で,対照群と比較して有意な細胞脱落と変性を認めたが,注入反対側では,注入側のような細胞脱落や変性は認められなかった.カイニン酸を投与したラットで,注入側および注入反対側の歯状回顆粒細胞層におけるBrdU陽性細胞が著明に増加しており,対照群との間に有意差を認めた.MK-801の単回前処置は,カイニン酸投与後の歯状回顆粒細胞分裂に影響しなかったが,MK-801を3回投与した場合は軽度の抑制効果がみられた.MK-801はカイニン酸投与後のCA1錐体細胞脱落に対して細胞保護効果を示したが,CA3に対しては効果がなかった.カイニン酸投与による辺縁系発作重積は両側海馬における歯状回前駆細胞の分裂を著明に増加させ,その後のシナプス再構成などてんかん原性変化の成因となる可能性が示唆された.MK-801の3回投与でCA3の細胞脱落は影響されないにもかかわらず,顆粒細胞分裂が抑制されたことから,神経細胞脱落は顆粒細胞の前駆細胞分裂促進に必須ではなく,NMDA受容体の活性化が部分的に発作重積後の前駆細胞分裂促進に関与していることが示唆された.
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