研究概要 |
ドーパミントランスポーター(dopamine transporter, DAT)は、ドーパミン神経細胞で特異的に発現し、ドーパミン再取り込み機能を持つ蛋白質である。シナプス間隙のドーパミンは、シナプスに放出された後にDATによってシナプス前細胞に再取り込みされ、伝達を終える。DATはドーパミン神経終末でのドーパミン量を調節していると考えられており、ドーパミン系の神経伝達に大きな影響を持つ。これまで、機能画像研究からアルコール常用によって線条体のDATが有意に減少すること、また、DATを欠損したマウスではアルコール症などの薬物依存を起こしやすいことが報告されていることから、私は、DAT遺伝子の新規SNP多型(2319G/A)とVNTR(variable number of tandem repeats)多型を用い、DAT遺伝子の2319番目の塩基がアデニンでありVNTR多型10回繰返しのハプロタイプ遺伝子型がアルコール症患者において有意に多いことを確認した(Mol. Psychiatry 4:552-557,1999)。今回、DAT遺伝子の5'上流領域の遺伝子発現調節に関わると思われる領域の多型を、直接配列決定法、SSCP(single strand conformation polymorphism)法を用いて解析し、新規のSNP多型(-1173C/G多型、-843C/T多型)があることを確認した。-1173C/G多型は、zinc finger typeの転写因子結合部位の可能性がある部位の多型であり、また一方、-843C/T多型はalcohol dehydrogenase遺伝子の調節領域と相同性が高い部位である。そのため、これらの多型を用いて、アルコール症182名の患者群と健常対照者群106名の相関研究を行った。その結果、これらDAT遺伝子の新規SNP多型とアルコール症との間には有意な相関は導き出せなかった。今後、レポーター遺伝子活性の変化に基づいた機能性多型に絞って解析する必要性を考えている。
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