研究概要 |
インターロイキン-1β(IL-1β)を腹腔内投与すると,視床下部室傍核(PVN)における一酸化窒素(NO)代謝物(NOx^-)濃度が増加することがわかっている(Ishizuka et al. 1998)。内側前頭前野(mPFC)に選択的GABA拮抗薬または作動薬を投与すると,PVNにおけるこのIL-1β誘発性のNOx^-濃度の増加反応にどのような効果をもたらすかを検討した。実験には,生後2〜3ケ月のウイスター雄性ラットを用いて,まず,ペントバルビタール(50mg/kg, i.p.)麻酔下,マイクロダイアリシス用のガイドカニューレをPVN上方1mmおよびmPFC上方2mmの位置に固定した。その5日後,マイクロダイアリシス用プローブをPVNおよびmPFCに刺入し,無麻酔無拘束の条件下でマイクロインフュージョンポンプを用いて一定の流速(1μl/min)で人工リンゲル液をPVN領域に灌流した。サンプルは,10分間隔で連続的にオートインジェクターによって酸化窒素分析システムに注入し,データ処理装置にて解析し,NOx^-濃度の定量を行なった。定常状態として3時間測定後,IL-1β(4μg/kg)を腹腔内投与し,PVN領域におけるNOx^-濃度の変化を測定した。次に,1L-1βの腹腔内投与後,選択的GABA_A受容体拮抗薬であるビククリンあるいは選択的GABA_A受容体作動薬であるムシモールをmPFCに潅流投与し,PVNのNOx^-濃度の変化を測定した。また,同様にして,IL-1β(4μg/kg)の腹腔内投与後,選択的GABA_B受容体拮抗薬であるサクロフェンあるいは選択的GABA_B受容体作動薬であるバクロフェンをmPFCに灌流投与し,PVNのNOx^-濃度の変化を測定した。また,マイクロダイアリシス法と並行し,免疫組織化学法による形態学的研究を行い,IL-1β腹腔内投与後のラット脳を灌流固定し,免疫染色を施行した。摘出脳は,固定後,ミクロトームにより凍結切片とし,PVNにおけるnNOS/Fosの2重染色を行なった。切片上の免疫陽性細胞の観察・画像データ作成はCCDカメラ付光学顕微鏡により行い,画像データの定量的解析にはカメラに接続するコンピューターを用いた。IL-1βを腹腔内投与したラットにおいて,mPFCにビククリン(50μM)を灌流投与すると,PVNにおけるNOx^-濃度の増加反応は有意に増強し,また,IL-1βの腹腔内投与後,mPFCにムシモール(50μM)を灌流投与すると,PVNにおけるNOx^-濃度の増加反応は有意に減弱した。IL-1βを腹腔内投与したラットにおいて,mPFCにサクロフェン(50μM)を灌流投与すると,PVNにおけるNOx^-濃度の増加反応は有意に変化せず,また,IL-1βの腹腔内投与後,mPFCにバクロフェン(250μM)を灌流投与すると,PVNにおけるNOx^-濃度の増加反応は有意に変化しなかった。さらにIL-1βを腹腔内投与したラットにおいて,PVNにおけるnNOS/Fosの免疫染色では,nNOS陽性細胞の一部にFos蛋白発現が認められた。これらのことより,IL-1β末梢投与によるストレス負荷時,mPFCは,GABA_A神経系を介して直接または間接的にPVNのNOを抑制的に制御していることが示唆された。この実験系では,GABA_B神経系の関与は,認められなかった。
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