研究概要 |
本研究は非受容体型チロシンキナーゼARG蛋白の生理機能を理解する事を目的にしているが,その手段として白血病患者検体より検出された転座型ARG融合遺伝子TEL/ARGを利用して解析を開始した. まず,同白血病細胞よりRT-PCRで作製したTEL/ARG cDNAを,細胞株(Rat-1,Ba/F3)に導入して恒常的に強制発現させる事により,細胞に現れる生化学的ならびに生物学的な変化を観察した.その結果は(1)ARGチロシンキナーゼはTEL/ARG遺伝子蛋白において恒常的に活性化されている. (2)TEL/ARGを発現している細胞内ではその下流標的と思われる蛋白のチロシンリン酸化が認められた. (3)TEL/ARGを強制発現したRat-1細胞では,軟天培地にてコロニーの形成が見られるようになった.またTEL/ARGの強制発現によりIL-3依存性Ba/F3細胞が非依存性増殖へ形質転換した.(Anchorage independenceならびにGrowth factor independenceへの形質転換) (4)TEL/ARGによる蛋白チロシンリン酸化は,チロシンキナーゼ阻害薬STI571によって抑制された. (5)STI571によりTEL/ARG, TEL/ABL, TEL/PDGFβRを発現したBa/F3細胞株の自己増殖が抑制されたが,TEL/JAK2のそれは抑制されなかった. しかしこの方法は強力なプロモーターで恒常的にTEL/ARG遺伝子を発現させる為,増殖に影響する他の遺伝子にも異常が付加されている可能性が否定できない.この欠点を補うべく,TEL/ARG遺伝子のテトラサイクリンによる誘導発現系を作製し,さらにARGキナーゼによる作用の詳細な検討を試みた.結果として(1)TEL/ARG誘導発現株ではテトラサイクリン添加にて目的蛋白の発現と,同キナーゼ活性が誘導できた. (2)生化学的には発現誘導したTEL/ARG自身とその下流標的蛋白に迅速なチロシンリン酸化が認められた. (3)TEL/ARG発現により細胞の増殖因子非存在下での生存能力と増殖因子に対する反応性の増強を認めた. 以上,細胞に対する直接作用が確認できた事はTEL/ARG,ならびにARGチロシンキナーゼの白血病への関与をより強く示唆している.さらなる研究の発展により,分子標的療法の応用も期待される。
|