研究概要 |
BCR/ABLキナーゼの特異的阻害薬であるSTI571は慢性骨髄性白血病(CML)の分子標的治療薬として注目を集めている。STI571の作用機序の詳細を明らかにし、STI571を中心とするCMLの新しい治療法の確立に寄与することを目的として以下の研究を行った。 (1)STI571の作用機序の分子レベルにおける解析:STI571の新たなるターゲットの1つで、急性白血病の発症に関与することが知られているETV6/ARGの抑制の機構を解析した。ETV6/ARGを発現する白血病細胞株HT93Aにおいては、治療濃度のSTI571ではアポトーシスは誘導されず、G1期停止が増殖抑制の主体であることがわかった。さらにその機序として、CDK抑制因子の1つであるp18/INK4cの発現が、mRNAおよび蛋白レベルで誘導されることを明らかにした(Nishimura, N.et al.,Oncogene 22:4074-4082,2003)。この現象はCMLにおいては観察されず、STI571の分子標的が疾患によって異なる可能性が示唆される。そこで現在proteomicsを用いてSTI571の標的蛋白の包括的解析を試みている。 (2)STI571と現在使用されているCML治療薬との併用効果とその分子基盤の解明:STI571は単独でもCMLに対しかなりの効果を収めているが、治療成績をさらに向上させるためには、現在使用されているCML治療薬との併用が必須である。STI571と他剤の最適な組み合わせを決定するため、isobologramを用いた解析を行い、STI571がインターフェロンおよびvincristineとの同時使用で強い相乗効果を示すこと、methotrexateとの組み合わせでは効果が減弱することを見い出した(Kano, Y.et al.,Blood 97:1999-2007,2001)。
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