研究概要 |
Fanconi貧血(FA)は常染色体劣性遣伝形式により発症する遣伝性疾患であり、高率に起こる骨髄低形成を特徴とする。本症は、8つの相補性群(A,B,C,D1,D2,E,F,G群)に分類され、B群を除く原因遺伝子は全てクローニングされている。しかし、その遣伝子産物の機能は不明のままであり、骨髄低形成を発症する機序に関しては、TNF-αの関与を示唆する実験結果が報告されているものの、その詳細は明らかではなかった。 我々はFA蛋白質の機能を明らかにすることを目的として、FANCAをbaitとしたyeast two-hybrid実験を行ない、IKK2をFANCA結合蛋白として同定した。IKK2は、NF-κBの活性化に必須である巨大複合体:inhibitor κB(IκB)kinase(IKK)complexの重要な構成因子の一つである。TNF-αは、細胞にアポトーシス誘導シグナルを伝えるが、同時にNF-κBの活性化を介して抗アポトーシス作用も惹起する。NF-κBは、通常、細胞質でIκBに結合して非活性型の状態で存在するが、細胞がTNF-α刺激を受けると、IκBがIKK complexによりリン酸化を受け、ユビキチン化の後に26Sプロテオソームにより分解される。すると、NF-κBはフリーの活性型となり、核へ移行して本来の転写因子としての働きを発揮し、抗アポトーシス作用を発揮すると考えられている。 FANCAはIKK2との結合を通じてIKK complexの機能を修飾することにより細胞のアポトーシス誘導への感受性を調節している可能性があると考えられた。実際、FA-A群患者由来リンパ球と、これにレトロウイルスにより正常のFANCA cDNAを導入したリンパ球をTNF-αで刺激した後に細胞内のIκB量を比較すると、後者においてdegenerationが亢進しているというデータが得られた。これは、FA-A群患者由来リンパ球では、TNF-α刺激後にNF-κBを介した抗アポトーシス作用がおこりにくいことを意味しており、TNF-αのアポトーシス作用が強調される結果、細胞がアポトーシスに陥りやすくなっていることが予想される。 この一連の研究は、FA細胞のアポトーシス誘導への高感受性のメカニズムの一端を説明しうるものであると思われる。
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