研究概要 |
ラット虚血再灌流腎のDNAにおける8-oxo-2'-deoxyguanosine(8-oxo-dG)蓄積量をHPLC-MS/MS法および免疫組織化学染色を用いて検討した。核DNA中の8-oxo-dG蓄積量は腎皮質,髄質外層ともに再灌流1時間後に最も多く,以後漸減した。ミトコンドリアDNA中の8-oxo-dGは,再灌流12〜24時間後にネクローシスに陥る髄質外層外帯の近位尿細管細胞(S3)に,壊死性変化に先行して(再灌流3〜6時間後に)著明な蓄積を認めた。皮質,髄質外層の遠位ネフロン細胞でも8-oxo-dG蓄積を認めたが,核DNA中の蓄積が主であった。酸化DNA損傷修復関連酵素である8-oxoguanine DNA glycosylase(OGG1)mRNAの発現は,正常腎では髄質外層の尿細管細胞に全体的に発現していたが,S3において再灌流3〜6時間後に著明に減少した。8-oxo-dGの蓄積部位および経時変化から考えて,ミトコンドリアDNA中の8-oxo-dG蓄積が髄質外層外帯の近位尿細管壊死(ネクローシス)に関与しており,その蓄積にOGG1の発現低下の関与が考えられた。シスプラチン誘発急性腎不全モデルにおいても,8-oxo-dGが尿細管細胞に蓄積しており,抗酸化剤(dimethylthyourea)で治療すると,8-oxo-dGの減少に伴い,尿細管細胞死が軽減した。培養尿細管細胞においても同様の現象がみられた。ラット慢性腎不全モデル(5/6腎摘)においては,8-oxo-dGの明らかな蓄積を認めることができなかった。以上の結果より,急性尿細管壊死の病態に酸化DNA損傷が関与していると考えられた。
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