研究概要 |
研究目的:FTY720はIsaria sinclairii菌より産生されるmyriocinを元に開発された従来の免疫抑制剤とは異なる特異な作用機序を有する新規薬剤であり,現在移植領域を始めとして有用性が報告されている.IBD類似の慢性腸炎を自然発症するモデルマウスIL-10遺伝子欠損マウス(IL-10^<-/->マウス)に対するFTY720の治療効果について検討した. 研究方法:腸炎を発症したIL-10^<-/->マウスに対しFTY720投与を行い腸炎に対する効果および粘膜免疫学的変化を検討した.(1)FTY720投与12時間後の免疫学的所見(リンパ球sequestration)につき検討した.(2)4週間のFTY720投与を行い,慢性腸炎に対する治療効果,組織学的所見,免疫学的所見を検討した. 研究結果:FTY720投与の結果,リンパ球数は末梢血(PB)で減少,腸間膜リンパ節(MLN),パイエル板(PP)で増加した.大腸粘膜固有層(CLP)は変化を認めなかった.リンパ球分画,サイトカイン産生には変化を認めなかった.4週間のFTY720投与により病態改善(体重増加)が認められ,組織学的に有意な腸炎所見の改善と病理学的スコアの減少が得られた.PB, CLPリンパ球数は減少しMLN, PPリンパ球数は差を認めなかった.リンパ球分画上PB, CLPにおけるCD4/CD8比の低下,CLPにおけるIFN-γ産生の減少を認めた. 考察:FTY720投与によりリンパ球のMLN, PPへのsequestrationが誘導されPBリンパ球数が減少した.その結果,慢性炎症の主座であるCLPへのリンパ球供給が減少し,CD4陽性T細胞比率減少,局所におけるサイトカインパターンの変化を介して,慢性腸炎の病態改善が得られた. 結論:リンパ球に対し新しい作用機序を有する新規免疫抑制剤FTY720は今後のIBD治療に有用であると考えられた.
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