研究概要 |
胃癌腹膜播種性転移は多くのステップと多数の遺伝子変化が関与しているため、その機序は未だ十分に明らかでない。我々は、これまでにマイトマイシンC吸着微粒子活性炭(MMC-CH)腹腔内投与による漿膜浸潤陽性胃癌の再発予防への有効性を報告してきた(Lancet,1992;Cancer Res.,1993)。しかしMMC-CHなどの腹腔内癌化学療法には、血小板減少、イレウス等の副作用があり、その適応を術中に迅速に決定する必要がある。そこでRT-PCR法を用いた腹腔洗浄水中の微少癌細胞の検出を行う際に有用な、より特異性の高い新しいマーカーのスクリーニングをcDNAチップを用いて試みた。胃癌腹水癌由来細胞株6種類(KATO-III, SNU5,SNU16,SNU719,GT3TKB, HS39),コントロールとして腹腔洗浄液中のリンパ球及び中皮細胞よりmRNAを抽出し、理研ヒトcDNAチップで解析を行った。 胃癌原発巣由来細胞株と腹膜播種性転移巣由来細胞株の遺伝子発現の違いの網羅的解析をDNAチップを用いて行ったところ、腹膜播種性転移巣由来細胞株では24種類の遺伝子が高発現しており、17種類の遺伝子が共通して発現減弱していた。上昇していたものとして1.上皮マーカー:CD44,ケラチン7,8,14, 2.薬物代謝:アルデヒドデヒドロゲナーゼ、3.シグナル伝達系:CD9、イノシトル3リン酸レセプターなどであった。低下していたものは1.免疫系:IL2R IL4 Stat 2.細胞周期関連因子p27などであった。これらの遺伝子発現変化をノザンブロツトで確認した。さらに胃癌腹膜播種性転移の臨床検体でRT-PCRを用いてこれらの遺伝子発現変化を確認した。さらにこれらが胃癌症例において再発予測の指標になりうるか、また従来のCEAなどのマーカーと比較してその有効性を検討した。以上の結果よりDNAチップを用いて同定された遺伝子群が胃癌腹膜播種性転移に何らかの形で関与しており腹膜播種性転移のメカニズムを考えるうえで新しい知見であると考えられた。
|