研究概要 |
(1)大腸癌手術患者約100例の切除検体より癌部・正常組織を採取し、total RNAを抽出したのち逆転写酵素によりcDNAを合成した。また、各症例の背景因子(年齢、性別、組織型、深達度、ステージ、転帰など)をデータベース化した。 (2)既知の糖転移酵素14種の塩基配列をもとにリアルタイムPCR用のプライマー・蛍光プローブを設計し、転写産物の測定系を構築した。 (3)リアルタイムPCRを用いて大腸癌における各種糖転移酵素(α1,3-およびα1,4-フコース転移酵素6種、β1,3-ガラクトース転移酵素6種、β1,4-ガラクトース転移酵素5種、β1,3-N-アセチルグルコサミン転移酵素5種)の発現量を定量した結果、H遺伝子の増加とβ3GalT-5遺伝子の低下を認めた。 (4)β3Gal-T5酵素蛋白に対するモノクローナル抗体(ラット)を作製し、組織発現を免疫染色にて調べたところ、正常小腸及び大腸上皮細胞、胃における腸上皮化生腺管に強く発現していた。一方、腺種・癌では発現が低下しており、腫瘍の発育・進展とともにβ3Gal-T5の発現が低下してゆく傾向が見られた。 (5)β3Gal-T5遺伝子の転写調節機構を調べた。レポーターアッセイによる検討では、転写開始点上流約150〜120bpの部位に主要な転写調節領域が存在し、この配列に変異を導入するとレポーター活性が失われた。また、ゲルシフトアッセイではこの部位に既知のホメオボックス蛋白であるCDX1/2およびHNF1α/βが結合することが判明した。 (6)大腸癌組織cDNAを用いた検討ではCDX1およびHNF1βの発現が大腸癌で低下しており、これらの転写因子の低下がβ3Gal-T5発現低下の原因となっていると推測された。
|