研究概要 |
潰瘍性大腸炎(以下UC)やクローン病(以下CD)は若年者に好発する慢性の炎症性腸疾患(以下IBD)であり,いまだ原因不明の難治性疾患である。近年これらの疾患成立進展において,微小循環系が重要な役割を果たしていることが示唆されている。そこで我々はIBD患者の特に活動期において,血中Endothelin-1(ET-1),Basic Fibroblast Growth Factor(b-FGF)およびVascular Endothelial Growth Factor(VEGF)を測定すると共に,これらの切除標本を用いてb-FGF, VEGF,さらにTransforming Growth Factor-β(TGF-β)について免疫組織学的染色を行い,IBDにおける腸管の虚血性病変の形成メカニズムを検討した。 材料としてUCの11例(活動期6例、非活動期5例)とCDの11例(活動期6例,非活動期5例)について血清中のVEGF, b-FGFおよび血漿中のET-1をELISA法を用いて測定した。コントロールは喘息患者と大腸憩室患者の各10名とした。その結果,1.コントロールの喘息と大腸憩室患者間に有意差はなかった。2.活動期のUCとCDにおいて,VEGF, b-FGF, ET-1の値が,いずれのコントロールに比べ有意に高値であった。3.活動期のUCとCDにおいてVEGFとb-FGFの値は,非活動期のそれに比べ有意に高値であった。4.UCとCDにおいて活動期のVEGF, b-FGF, ET-1の三者間に有意の相関を認めた。次いで活動期UCの6例と活動期CDの6例の切除標本と,コントロールとして10例の大腸癌患者の手術で切除した小腸・大腸の組織標本を用いて,免疫組織学的にVEGF, b-FGF, TGF-β_<1,2,3>のサイトカインの発現を観察した。その結果,1.コントロールの大腸癌患者の癌以外の小腸・大腸組織ではいずれも染色されなかった。2.活動期UCとCDの各6例では,粘膜下組織に血管の増生がみられ,VEGFとb-FGFは特に血管壁のendothelial cellに強度に染色された。3.TGF-β_2とTGF-β_3の染色をみるとUCの4例とCDの4例に中等度から軽度の発現をみた。 即ち,UCやCD患者の血中にはVEGFやb-FGFそしてET-1が高値になっていること,そしてVEGFとb-FGFが活動期UCとCDの全例に強度に染色された所見は,本症例において血管収縮を介して腸管虚血がもたらされることを意味し,UCやCDなどのIBDの成立には血管炎が病因として関与しているものと考えられた。
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