研究概要 |
敗血症などに続発するALIを中心とした肺障害は依然救命率の低い疾患であり,これらの病因は急性炎症がその本体であることが明らかになってきた.急性炎症における好中球の炎症部位への浸潤のうち炎症反応のcritical stepともいえるtransmigrationに関して我々はin vitroの系を使って好中球血管外遊走時の血管内皮細胞機能を検討しており,好中球血管外遊走の際に血管内皮細胞の細胞骨格を構成するmyosin light chain(MLC)がリン酸化され,このリン酸化を行う酵素myosin light chain kinase(MLCK)の抑制剤で血管内皮細胞を前処置すると好中球血管外遊走が抑制されることを報告し(H.Saito, J.Immunol.161:1533-1540,1998)Calcium依存性MLCリン酸化経路が好中球血管外遊走に関与することを見いだした. 今回我々は当該研究期間において同様の系を用い、small G protein Rho familyを介したCalcium非依存性MLCリン酸化経路に関する細胞内情報伝達機構についても検討、Rho inhibitorもしくはRho kinase inhibitorで血管内皮細胞を前処置すると好中球血管外遊走が抑制されることを認め、血管内皮細胞内MLCのリン酸化に引き続き起こる好中球の血管外遊走に関してCa/calmoduline MLCKの他にRho pathwayもkey mediatorの一つであるという結果を得た(H.Saito, J.Leuko.Biol.72:829-836,2002).一方で血管内皮細胞のThrombin刺激により、stress fiberが形成され、その先端へのPaxillinのrearrangement、およびtyrosineリン酸化が生じるが、RhoやRho kinase inhibitor前処置で、それらの変化が抑制されることを確認、preliminaryであるが好中球遊走の際にFAリン酸化も生じ、Rho, Rho kinase inhibitor前処置により抑制されることを見いだした.これらの結果は、血管内皮細胞内Rho, Rho kinaseを介した情報伝達経路はFAリン酸化も介し好中球血管外遊走において重要な役割を担っている事を示唆し、今後FAの関与を強調するため、FA単独の抑制実験がさらに必要と思われ、FAリン酸化に関する研究は追加実験後、次年度以降に報告予定である.
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