研究概要 |
弓部大動脈全置換術の際用いられる脳保護法のうち順行性選択的脳灌流法(ASCP)は脳エネルギー代謝等の面から他の脳保護法より優れている。しかし、我々の弓部全置換術220例の多変量解析による検討において、脳梗塞の既往が術後脳機能障害のindependent predictorであることを報告した(Ann Thorac Surg 2000;70:3-8)。脳梗塞を有する脳に対するASCPの及ぼす影響について我々は、脳梗塞犬をMolinari GFら(Stroke 1970;1:224-31,232-44)の報告に準じて作成し検討、報告した(J Thorac Cardiovasc Surg 2001;122:734-40)。その結果、人工心肺を用いた超低体温下ASCP(alpha-stat management,直腸温20℃)を120分間行うと、脳梗塞を有する群では、特に復温中の嫌気性代謝の亢進とASCP中の脳虚血の可能性を示した。今回我々は、pH managementの差による脳保護効果を検証し、ASCP中からのmalondiadehyde, glutamateの上昇、ASCP後のsomatosensory evoked potentialにおけるcentral conduction timeの延長とamplitudeの低下を、いずれも脳梗塞モデルalpha-stat群において認めた。これは、脳梗塞を有するhigh risk群においても、pH-statmanagementを適応することにより術中の脳虚血を最小限に抑えられることを示唆し、pH-stat managementはさらなる弓部大動脈手術成績の向上に寄与する可能性があると考えられた。
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