研究概要 |
我々は非小細胞肺癌における血管新生の実態と治療への可能性を探求するため,多種多様な血管新生促進因子及び血管新生抑制因子の発現を包括的に検討した.外科的切除を行った非小細胞肺癌の凍結標本からRNAを抽出し,quantitative RT-PCR法により,様々な血管新生関連因子の遺伝子発現を定量した.また,腫瘍のパラフィン切片を用い,血管新生関連因子の蛋白発現を免疫組織学的に評価した.同時に,腫瘍内微小血管密度も算出し,腫瘍内血管新生の指標とした.これらの結果に臨床的解析をも加えた.その結果,腫瘍内血管新生は非小細胞肺癌における有意な予後因子であることが認められた.特に,腺癌は扁平上皮癌よりも腫瘍内微小血管密度が高値であり,予後不良であった.様々な血管新生促進因子及び血管新生抑制因子を検討した結果,vascular endothelial growth factor-A(VEGF-A),ケモカインであるInterleukin-8,及びN-cadherinなどが非小細胞肺癌における血管新生に重要な役割を果たしていることが認められた.ヒト肺癌細胞株であるA549,MAC10も共にVEGF-A及びinterleukin-8の発現は陽性であり,一方platelate derived-endothelial growth factorの発現は陰性であった.臨床的には,非小細胞肺癌においてVEGF-A発現陽性腫瘍が51.9%に,interleukin-8陽性細胞が45.2%に,N-cadherin発現陽性細胞が30.7%にみられた.その中でも,VEGF-Aはリンパ節転移にも関連し,更に非小細胞肺癌における独立した予後因子であった.これらのことより,VEGF-Aが血管新生だけでなく,腫瘍増殖などにも関与していることが示唆された. 更に,我々はヌードマウスに癌(癌細胞株A549とMAC10,外科的摘出腫瘍の細切)を移植し,癌転移モデルを作製した.そして,血管新生阻害剤であるTNP-470とCGS27023Aをそれぞれ単独に投与した.その結果,TNP-470投与群では腫瘍増殖抑制と肺転移抑制の効果がみられた.CGS27023Aでは腫瘍増殖抑制はみられなかったが,肺転移抑制の効果がみられた.副作用としては,TNP-470投与群において体重減少がみられた.
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