研究概要 |
脊椎・脊髄外科領域で臨床的に対応することが多い頸椎症性脊髄症に代表される慢性脊髄圧迫病変の知覚機能障害を客観的に評価することは困難である.本研究では脳磁計を使用し,術前後にsomatosensory evoked magnetic fieldsを測定することにより慢性脊髄圧迫病変で誘発された知覚機能障害を定量的に解析し,術前後における神経学的所見との相関性を検討した. 術前および術後第7病日に両側正中神経および後脛骨神経刺激を行い,N20mおよびP38mをNeuromag社製204チャンネル全頭型脳磁計で計測した.また,1.5T MRIを撮影し,前記刺激により推定された等価電流双極子をMRI上に投影してdipoleの潜時・振幅,局在を術前後で比較検討した. 対象症例は7例で,内訳は頸椎脊柱管狭窄症4例,頸椎後縦靭帯骨化症2例,硬膜動静脈瘻1例である.年齢は43〜73歳(平均56.6歳),男性5例,女性2例で,病脳期間は平均38.6ヵ月である.手術は全例頸椎脊柱管拡大術を実施した.術後7例中4例で術前に比較して潜時短縮と振幅増大が認められたが,残り3例では不変であった.神経学的所見の術前後での変化をNeurosurgical Cervical Spine Scale(NCSS)で評価すると,変化のなかった1例を除き43〜100%(平均58.7%)の改善率が得られた.Dipoleの潜時・振幅に変化のみられなかった3例ではNCSSでの改善率が60%以下で,NCSSのperformance statusでもgradingの改善が0あるいは1段階と改善の程度が低調な例であり,dipoleの変化と術前後での神経学的所見の改善は相関すると考えられた. 脳磁計による慢性脊髄圧迫病変の知覚機能障害の評価は,障害認知の感受性が高く,より鋭敏に知覚障害の変化を捕らえることが可能な点で有用と考えられる.
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