研究概要 |
【背景及び目的】悪性グリオーマが自己抗原を細胞障害性T細胞(CTL)に有効に提示しているかという問題は腫瘍ワクチン療法等の免疫療法の成立に重大な影響を与える。Transporter associated with antigen processing(TAP)分子は細胞内自己抗原蛋白を粗面小胞体内に輸送させる抗原提示過程に必要な分子である。今回、悪性グリオーマ細胞におけるTAP1分子の発現と発現に影響を与えるサイトカインについて検討した。【方法】8種の悪性グリオーマ細胞株を使用し、TAP1分子の発現をwestern blot法、northern blot法にて検討した。またIFN-γ,IFN-βのTAP1分子発現に与える影響を検討した。TAP1 promoter領域の遺伝子異常の有無をPCR法により得られたTAP1 promoter領域DNAのシークエンス解析より検討した。【結果】TAP1 promoter領域のシークエンス解析では6種にTAP1翻訳開始部位から446番上流にGからTへの1塩基多型を認め、1種で34番上流にGからAへのmutationを認めた。TAP1分子の蛋白レベルでの発現は未処置の状態では微量で、IFN-γ,IFN-βの処置にて増加していた。同様にTAP1分子のmRNAの発現は通常の状態では検出されず、IFN-γ,IFN-βの処置にてその発現が認められた。このIFN-γ,IFN-βのTAP1分子誘導効果はTAP1 promoter領域の遺伝子多型の有無に影響されなかった。【結語】悪性グリオーマ細胞において通常の状態ではTAP1分子の発現は微量であり自己腫瘍抗原をCTLに提示する機能が低下している可能性がある。TAP1 promoter領域にはIFN-γのシグナル産物が作用するgamma activating sequence(GAS),IFN-βが作用するIFN-stimulated response element(ISRE)が存在しTAP1の発現がIFNにより調節されることが知られている。悪性グリオーマにはTAP1 promoter領域に1カ所の遺伝子多型が高率に存在したがこの遺伝子多型の有無に関わらず、IFN-γ,IFN-βはTAP1分子の発現を増加させることが確かめられた。従ってIFNの投与はTAP1分子の発現を増加させることで悪性グリオーマの抗原提示能を強めCTLに認識させやすくする可能性がある。この点から現在悪性グリオーマの治療に使用されているIFN-βは腫瘍ワクチン療法の補助薬として有用ではないかと考えられた。
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