研究概要 |
ヒト悪性グリオーマ細胞は、単球遊走因子(MCP-1)を高レベルに発現し、その結果腫瘍組織中に多数のマクロファージの浸潤をきたす。一方、その数はマクロファージに比べて少ないが、リンパ球の浸潤もしばしば腫瘍組織中に認められる所見である。最近、MCP-1と同じCCケモカインに属しながら、単球ではなく、それぞれに特異的なリンパ球分画を遊走させる新たな分子群が同定された。本研究の目的は、これら分子群のグリオーマ細胞/組織における発現および脳腫瘍免疫における生物学的意義を明らかにし、グリオーマ治療への臨床応用の可能性を明らかにすることである。 ヒト悪性グリオーマ細胞12株(NP-1,NP-2,NP-3,U-87MG,U-105MG,U-138MG,U-251MG,U-373MG,SF126,SF188,RBR17T、TG98G)および手術摘出組織よりmRNAを抽出しRT-PCR,Northern blotによりリンパ球特異的CCキモカイン(LARC,PARC,TARC,ELC,SLC,LEC,HCC-2,SCM-1α)のmRNA発現パターンを検討したところ、大部分のケモカインの発現レベルは低く、Northen blotではほとんど検出限界以下であった。その中で、T cellおよびB cellを遊走させ、これまでは肝臓特異的に発現するとされていたLARC(Liver and Activation-Regulated Chemokine)のみが高発現を示していた。LARCの発現はimmunoblotによりタンパク質レベルでも確認された。また、その発現は報告されているように、Phorbol esterで強く刺激された。 次に組織レベル(悪性グリオーマ33検体)でLARCの発現と浸潤するリンパ球分画の関連を免疫組織化学的に調べたところ、LARCの発現はLARCの受容体(CCR6)の発現が報告されているCD4,CD8,CD45R0陽性のTリンパ球分画の浸潤と有意な相関があった。CD4-陽性細胞はhelper T cell,CD8-陽性細胞はcytotoxic T cell,CD45R0はmemory T cellとしてそれぞれ知られており、いずれも腫瘍免疫において重要な役割を果たすため、今後遺伝子導入などいずれかの方法で悪性グリオーマ内にLARCを強発現することができれば、より強い抗腫瘍免疫が得られ、新たな治療法の1つとなる可能性が示唆された。
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