研究概要 |
平成13年度、高濃度の局所麻酔薬が発生過程の神経細胞、特にその成長円錐部や神経突起部に強い障害を与え、一定時間の後には不可逆的な結果をもたらすことが証明できた。平成14年度には、全ての局所麻酔薬がこの作用をもち、リドカインやテトラカインは特に強力な作用を持つことを確認した。また、末梢神経細胞の細胞膜表面に受容体が発現している神経栄養因子GDNF, BDNF, NT-3により、局所麻酔薬毒性による神経障害後の回復が促進されることが判明した。平成15年度は局所麻酔薬暴露により、成長円錐部のカルシウム濃度が上昇することを確認し、その様式から、局所麻酔薬による神経成長円錐崩壊の作用機序を考察した。 本研究では、臨床的に汎用されている局所麻酔薬、リドカイン、テトラカイン、メピバカイン、ブピバカイン、ロピバカインに暴露後の背側神経核初代培養細胞をモデルとして用いた。また、各神経栄養因子については、培養細胞に対する至適濃度が存在するといわれているので、栄養因子の濃度を変化させることにより、作用の程度を比較した。その結果、3栄養因子に関して、局所麻酔薬暴露後の神経成長円錐崩壊阻止作用、再生促進作用が認められ、この作用は濃度依存的であった。 神経成長円錐崩壊のメカニズムに関して、細胞内カルシウム濃度の上昇が引き金になるかどうかを検討した実験では、局所麻酔薬暴露により、成長円錐部のカルシウム濃度が上昇することが観察された。成長円錐部での変化は神経軸索における変化よりも時間的に先行した。また、カルシウムチャネルブロッカーは成長円錐崩壊の抑制に無効でり、イオンチャネルを介さない作用機序が示唆された。局所麻酔薬は神経細胞の脂質二重膜に直接作用し、神経細胞の構造を破壊すると考えられる。成長円錐部は構造的に神経突起部や細胞体よりも局所麻酔薬毒性に対して脆弱であると考えられる。 今後、この方面の研究を更に進めることにより、局所麻酔薬毒性による神経障害の治療法の確立や神経毒性のない安全な局所麻酔薬の開発が進むと期待される。
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