研究概要 |
高頻度脳波(高頻度振幅,high frequency oscillation;HFOs)は,体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potentials;SEPs)に重畳する誘発電位成分であり,SEPsが椎体細胞の興奮性シナプス後電位の集合と考えられるのに対して,HFOsは抑制性介在ニューロンの活動を示していると考えられている.麻酔薬はGABAの作用増強により抑制性介在ニューロンの賦活化し,麻酔作用を発現しているという仮説も提唱されていることから,本研究はセボフルランおよびミダゾラムがSEPsおよびHFOsに与える影響を調べることを目的とした.対象としてウィスター系雄性ラットを用いた.左坐骨神経を刺激し,右体性感覚野でSEPsおよびHFOsを記録し,以下のような知見を得た. 1.ケタミンの持続静注による麻酔方法の鎮痛効果は足底熱刺激法にて確認した.この麻酔はSEPsおよびHFOsに影響を与えず,この麻酔方法はSEPsおよびHFOsの測定に適していると考えられた.坐骨神経の直接刺激によるSEPsは主に位置,触覚など温痛覚以外の感覚を伝える上行性伝導の反映であると考えられた. 2.セボフルランはSEPsの潜時を濃度依存性に延長した.振幅に関しては,1%セボフルランはSEPsの振幅を増大させ,その後,濃度依存性に振幅を減少させるという二相性を示した.また,セボフルランは,HFOsの潜時はSEPs同様に濃度依存性に延長した.振幅に関しても濃度依存性に減少させた.低濃度セボフルランによる振幅増加は皮質レベルでのGABAの作用によるものであり,その後の振幅の減少は視床レベルでのGABA作用によると推測された.一方,HFOsは二相性を示さなかったことから皮質下で発生している可能性が考えられた. 3.ミダゾラムは,SEPsおよびHFOsの潜時を一律に延長した.また,SEPsの前期成分の振幅には影響がなかったのに対して,後期成分の振幅を減少させた.ミダゾラムによりすべてのHFOsの振幅は著明に減少した.ミダゾラムの作用は,主として視床レベルでのGABA作用増強であると考えられた.
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