研究概要 |
1,膀胱癌における中心体過剰複製と染色体不安定 中心体は2つの中心小体とその周りを取り囲む中心体マトリックスからなる。中心体複製周期は厳密にコントロールされており,その調節機構の破綻が中心体過剰複製の原因となる。中心体が過剰に複製されると紡錘体極は多極性となり,娘細胞への不均衡な染色体分配が生じる。中心体過剰複製はヒトのがんで高頻度に生じており,染色体数の不安定性の要因と考えられている。膀胱癌における染色体の不安定性と中心体過剰複製の関連について調べた。 RT-4は病理学組織学的に悪性度が低いグレードの早期がんから樹立された細胞株であるが,中心体過剰複製を認めず,同時に染色体数の不安定性も低頻度であった。一方,HT-1197とHT-1376は病理学組織学的に悪性度が高いグレードの進行がんから樹立された細胞株であるが,中心体過剰複製と染色体数不安定性が同時に生じていた。中心体過剰複製は染色体不安定性のひとつの大きな要因であり,膀胱癌の浸潤・進行に重要であると考える。 2,中心体に含まれるタンパク質の同定 中心体に含まれるタンパク質を同定するために,膀胱癌培養細胞から超遠心分離により中心体を分離した。まず,中心体が分離されているか否かを,抗γチューブリン抗体を用いたウエスタンブロットで確認した。次に抗nucleophosmin/B23(NPM)抗体を用いてウエスタンブロットを行った。CDK2/サイクリンEのリン酸化のターゲットがNPMであることが最近明らかとなっている。NPMとγチューブリンを同レーンに認めたので,NPMは膀胱癌細胞の中心体に存在することが明らかとなった。 分子生物学的な中心体複製機構の解析は始まったばかりであり,多くの知られていない事実がある。中心体複製に関する研究は,膀胱癌における染色体不安定性の機構解明に役立ち,中心体複製をターゲットとした癌治療を可能にするかもしれない。
|